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広報・調査部

「食と農を 未来へつなぐ」(2)全農事業担当理事インタビュー 耕種生産事業担当常務 冨田健司

 耕種総合対策・耕種資材事業・施設農住事業を担当する冨田健司常務理事に令和4年度の振り返りと5年度に向けての戦略について聞きました。


耕種生産事業担当常務 冨田健司

――令和4年度を振り返り、どのような一年でしたか。

 中期計画の計画策定時の想定を超える厳しい情勢下での事業となりました。コロナ禍での生産資材のサプライチェーン混乱や、中国をはじめとした資源国の輸出規制、加えてロシアのウクライナ侵攻や円安が追い打ちをかけ、多くの資源を輸入に依存しているわが国においては、これまでにない肥料原料や飼料穀物など農業関連資材の高騰や調達への不安などにより、生産者の営農や経営、くらしに大きな影響を及ぼしました。

 全農は、生産者の営農に支障を来さないよう肥料原料の確保と、資材の高騰対策や土壌診断に基づく減肥提案や堆肥の活用など生産コスト低減に懸命に取り組んできました。

 しかしながら、生産者やJAグループの自助努力を超えるような状況であったため、なんとか生産者の負担を軽くしようと国に対し肥料の価格高騰対策などの支援を求めてきました。

――今後の動向についてどのように見通していますか。

 現在は、急騰していた肥料原料の国際市況は下落傾向、また為替相場も一時期に比べれば円高方向に転じていますが、まだまだ予断を許さない状況であるとみています。今後も値上がり前の価格水準までの改善はないだろうとみて引き続き備える必要があると考えています。

耕種事業部門連携により生産振興策を協働で推進

――そのような見通しの中で、5年度はどのように取り組むお考えですか。

 農業現場の厳しい状況が続く中、国の食料安全保障の強化に向けた動きもあり、全農の営農・生産資材事業にとって重要な1年になります。このような情勢だからこそ、中期計画で全農グループが2030年にめざす姿として掲げた「持続可能な農業と食のために“なくてはならない全農”であり続ける」ため、農業生産基盤を維持し、生産振興を図るために、米穀・農産・園芸事業部門と連携し、生産現場に効果を実感いただけるような行動を起こしていかなければならないと考えています。

――お話に出た政府の食料安全保障の動きについてどのように捉えていますか。

 昨年末に政府は「過度な輸入依存からの脱却に向けた構造転換」への対策を講じることを発表しました。生産資材関連では、堆肥などの利用拡大や広域流通、輸入肥料原料の備蓄などによる肥料の国産化や安定供給の確保、生産現場では水田の畑地化による麦・大豆などの本作化などが掲げられています。この施策にスマート農業化、農産物の輸出促進、農業のグリーン化の3点を加え、展開することとしています。これは全農の重点施策とも合致しており、耕種事業部門が連携し、総力を挙げて現場展開をすすめていかなければなりません。

農業経営に貢献できる技術・資材の普及

――幅広い取り組みになると思いますが、5年度に具体的に取り組む重点施策をお聞かせください。

 農業生産基盤の維持・拡大に向け、国内肥料資源の活用、スマート農業技術による生産性向上など、環境負荷を軽減し、かつトータルコスト低減などによって農業経営に貢献できる技術・資材の普及に取り組みます。

担い手アプローチ活動による接点強化

 生産現場における労働力不足など厳しい状況下で、懸命に農業を営む生産者に寄り添い、生産意欲・生産力が落ちないよう取り組みをすすめていきます。

 現在JA担当者とともに、「担い手アプローチ活動」による生産提案活動を展開していますが、その3年目にあたる今年度は全国各ブロックに「TAC・生産対策課」を新設し、活動事例も75件と大幅に拡大しました。引き続き、実践事例をJAグループ全体で共有し、担い手の困り事を解決する提案活動を通じた接点強化を図り、結果としての担い手のJA利用拡大にもつながるように取り組みます。

「Z-GIS」や「ザルビオ」とスマート農機の連携

 営農管理システム「Z-GIS」の会員による圃場(ほじょう)登録数は100万圃場を超え、栽培支援システム「ザルビオ」の会員はこの1年間で前年の5倍に拡大するなど、担い手の助けとなるツールとして普及がすすんでいます。

 そこで4年度は、スマート農機との連携による可変施肥・可変防除(必要な部分だけに適量の施肥や農薬散布をする機能)ができるよう連携をすすめてきました。5年度も両ツールの普及拡大と農業機械とのデータ連携により、生産性の向上に取り組みます。また、担い手とJAがデータを共有し、スマート農業技術の活用によるJAの営農指導の効率化もすすめます。

Z-GISで共同防除の圃場を確認するJA職員

ゆめファーム栽培技術による施設野菜の効率生産

 全農は2014年より国内最大級の施設「ゆめファーム全農」での生産実証の取り組みを開始し、トマト・キュウリ・ナスの高収量栽培技術の確立に取り組んできました。結果、全国平均の2~4倍の単収をあげられることが実証できました。

 今年度より、担い手に対しその実証に基づく「ゆめファーム全農パッケージ」の普及をすすめるとともに、全国に栽培技術・経営全般の実践研修ができる「トレーニングセンター」の新設に向けた検討を始めています。

「グリーンメニュー」の提案・実践

 近年、環境問題への世界的な関心が高まり、国が「みどりの食料システム戦略」をすすめるなど、環境調和型農業への具体的な取り組みが求められています。全農は生産現場で実践する環境調和型農業の技術・資材を体系化した「グリーンメニュー」を作成しました。グリーンメニューは、(1)土壌診断に基づく施肥量の抑制(2)IPM総合防除などによる化学農薬だけに頼らない防除(3)堆肥など国内肥料資源の活用など複数メニューを総合的に実践します。5年度はモデルJAで実践、導入効果を検証し、順次全国のJAで水平展開・全国普及に取り組みます。

麦・大豆・子実とうもろこしの増産に向けた栽培技術の確立

 食品の価格高騰・調達不安が高まり、麦・大豆・とうもろこしなど輸入依存度の高い作物の国産化が求められています。しかしながら、日本の麦・大豆の単収は海外と比べ明らかに低く、2000年代に入った以降も収量水準は停滞しています。生産性の向上が急務であり、各地域における栽培や施肥・防除など技術の確立に取り組んでいます。

 子実とうもろこしは、これまで北海道での栽培が主でしたが、今年度から宮城県のJA古川管内で92haの大規模実証を開始し、大豆との輪作による栽培体系の確立と、経営安定に向けた評価を複数年かけてすすめています。

肥料の国産化と輸入原料の安定確保

 国際的な肥料原料の高騰と、競争激化による調達不安が続く中、輸入依存度の高いわが国では国産肥料への切り替えが急務となっています。肥料資源の地域循環と広域流通に向け、地域の肥料資源はJA域で循環・リサイクル、県域では県内堆肥活用、全国段階では堆肥入り混合肥料をBB工場や肥料メーカーと連携した製品開発・普及をすすめます。

 併せて、輸入肥料原料については、引き続き調達先の多元化による安定確保・調達と、国内における備蓄強化などにより、営農に支障をきたさぬよう安定供給に努めます。

輸入肥料原料の安定確保のための調達先の多元化も重点

コンバインの共同購入

 農機の共同購入は、生産者が必要とする機能を備えた機械の開発を農機メーカーに要求し、JAグループが生産者の需要をとりまとめ、一括仕入れを行うことで生産者に価格メリットを還元しています。大型・中型トラクターに続く第3弾として、コンバイン(4条刈り・50馬力クラス)の共同購入により生産コストの低減に引き続き取り組むこととし、昨年9月にメーカーに開発要求しました。現在、6年4月の供給開始に向け、全国で事前購入申し込みのとりまとめをすすめています。

JAグループの営農・経済事業体制の効率化

 JAの営農・経済事業改革による収益性の改善が喫緊の課題であり、また一方では、JAの営農・経済事業部門ではJA職員の減少がすすみ、生産現場における営農指導・担い手対応が手薄になってきていることに危機感を抱いています。そこで、JAにおける物流改善や受発注業務の効率化、店舗運営の効率化に資するシステム導入などさまざまな支援メニューを準備し、JAの営農経済事業改革の支援に取り組んでいます。

 併せて、JA職員の人材育成を図るため、施肥診断技術者・防除指導員、農業機械技術指導士、乾燥設備作業主任者などの技術者養成講習会や、TAC担当者、経済担当者向けの各種研修会を開催しています。

――取り組むべき課題が大きく生産現場での定着に向けては中長期的に取り組むことが必要だと理解しました。最後に全農としての中長期の戦略について聞かせてください。

生産者に寄り添いベストな支援を

 生産者の営農・経営・くらしは厳しさを増しており、JAと共に全農自らもっと生産現場に足を運び、今お話ししたような取り組みをしっかり実践することに尽きます。

 JAグループが一丸となって、すべてのベクトルを地域農業の担い手に向け、担い手の営農データなどをもとに、課題解決や生産提案を行う「生産者に視点をおいたビジネスモデル」への転換をすすめていく考えです。生産者に寄り添い「JAと本会が情報を共有し、一体となって生産者にベストな支援」を実践していきます。

――ありがとうございました。

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