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広報・調査部

【AgVenture Lab発 スタートアップ インタビュー】農業用IoTに挑戦するスタートアップ企業 株式会社Momo 大津真人代表

 IoT(Internet of Things=アイ・オー・ティー:※モノのインターネット)が農業の現場でも活躍しつつあります。これまでアナログで収集してきたデータをデジタルに転換することで新たな価値が生まれます。さまざまな現場でIoTの構築をしてきた株式会社Momo(モモ)の大津真人代表にお話を聞きました。

※モノのインターネット さまざまな「モノ(物)」がインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組み


IoTの全体像

 IoTは大きくは二つに大別されます。ToC(一般消費者向け)はスマートフォンによりスマートスピーカーやスマート家電などが爆発的に普及しました。基本的には消費者共通の課題解決に使われるもので、数万・数十万単位で出荷され、大きく広がることを前提に初期投資をして回収します。対してToB・ToG(企業・自治体などの産業用)はニッチな課題に対して1~数十個単位で開発しなければならない。専門性も高くスケールメリットも出ないので高額になりがちです。産業用IoTは皆さんが思っているよりも普及していないのが現状です。それはIoT全体の成長率が年113%(+13%)と低いことにも表れています。これは中国以外世界全体の共通の現状です。

 IoTはアプリのようなソフトウェアだけではなくハードウェアのものづくり部分を含みます。国内にも40~50社ほどIoTを専門とした企業がありますが、基本的には1プロダクト・1イッシュー(一つの共通課題に対応した一つの商品)を大量にばらまく戦略が中心で、ToC向け前提がほとんどです。わが社は少量多品種の対応ができる数少ない企業と評価をいただいています。

Momoのビジネスモデル

 IoTはさまざまなセンサーから出された信号を処理する基盤をつなぎ、出てきたデータを必要なところに飛ばす通信までが一体になっています。こうした開発・回路設計や組み立てに加えて量産までを自社で行える企業はそう多くありません。

 わが社の最初のクライアントは工事現場の重機の動きをモニタリングしたり、それまで雪の見回りで労力をかけていた自治体向けの積雪量のセンシングしたりといった産業用の場合が多かったのですが、農業は確実に取り組むべき分野と認識していました。こうした少量多品種の開発の経験から、IoTに必要なさまざまな技術要素を要素分解したモジュールにし、お客さまの要望に応じてレゴブロックのように組み合わせることが出来るIoT Palletという、開発コストそのものを低く抑える独自のプラットフォームを持っています。

農業の現場で生かせるIoTを

 最初はコーヒーの栽培を行っている企業から「土壌のモニタリングがしたい」という要望をいただき、土壌の温度や水分量などを測るIoTを開発しました。その後、地元兵庫でタマネギ農家さんと話をしたりイチゴやトマト農家さんと話をしたりするうちに、農業の現場でデータを取りたいというニーズは多いが、まだそうしたツールが十分に普及していないと感じました。ただ、縁あって全農の新規事業開発部門(当時)の方と出会って、いろいろな専門家と話をする機会をいただき、農業といっても品目や栽培スタイルによって現場の課題は全く異なるという難しさも感じました。市場を見ると農業向けのIoTを取り扱う企業は少ないですし、始めたとしても思った通り売り上げが伸びず撤退する企業が散見されます。

 紆余(うよ)曲折あって、中小規模のハウス農家さんが気軽に栽培環境をモニタリングできる「Agri Pallet(アグリパレット)」を昨年12月にクラウドファンディングで売り出したところ大きな反響がありました。アグリパレットは、温度・湿度・二酸化炭素濃度・日照量・土壌温度・土壌水分量・土壌EC・土壌pHを計測・表示・エクセルで出力できます。

 

集団での使用に価値を発揮 アグリパレットウィズ

 現在、通信会社のKDDIと組んで、京都府舞鶴市の万願寺甘とうの生産部会の複数農家さんにアグリパレットの実証試験に参加いただいています。複数の農家さんで使うことで優秀な成績の農家さんとそうでない農家さんの栽培環境の差がデータで確認できるようになり、全体のボトムアップにつながると期待されています。1件の農家だけで使うのではなく部会単位で使っていただきブランド全体の品質や生産性が向上することで安定供給が可能になり、底上げされる農家さんだけでなく熟練農家さんの収入も向上されるのではと期待しています。この集団向けバージョンを昨年末に「アグリパレット ウィズ」としてリリースしました。単なる計測ツールではなく、地域の産業振興に貢献できるデータインフラになることを理想と考えています。複数農家さんは普及員や農業振興課経由でお声掛けいただければと思います。部会単位での利用は現行の舞鶴市の万願寺あまとう、高知県北川村のゆずに加え、徳島県の高付加価値作物の部会でも実証する予定です。

アグリパレットウィズの画面
万願寺あまとうの農家で使っている端末

 

新しい機能を持ったアグリパレット

 こうして農業向けのIoTを開発する中でいくつか新機能を追加しました。一つはデータとともに天気予報と公設市場での販売価格や取引量を表示できるようにしました。この機能には、価格や出荷量を正確に把握して定植や出荷ができることになれば収入の向上に貢献できるのではないかという狙いがあります。また、現在AIによる価格と出荷量の予測機能を開発しています。

これから農業用IoTが普及するためには

 ニュースや農業メディアを見る限り、さまざまなスマート農業技術が普及し始めていますが、一方で同じ地域でも大半の方がそうしたデジタル化のメリットを享受できないままだと思います。こうした先端技術は、最終的にはインフラになり地域や社会に貢献することが本質です。その点で、部会や農業振興公社など、日本の農業を支えてきた仕組みや単位が、これらの技術をインフラとして整備するなどの地域全体の産業振興につながる動きがもっと増えればと思います。産業向けIoTとして見ても、(個々の農家さんのニーズへの作り込みは難しい一方で)そうした集団単位に対しての作り込みや、農業・農業振興のプロの方の意見の反映は非常に取り組みやすいです。その観点でも、地域や作物によって違うニーズや、メーカーが気づかないような使い方や改良点を見つけていただければ、さらに実情にフィットしたものになっていき、より普及の意味が出てくるのだと考えています。

 


お問い合わせは

株式会社Momo HP内のコンタクトフォームからご連絡ください。

http://momo-ltd.com

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