特集

特集

日本農業の構造変化の方向について 中長期視点でコンサルティングを

農研機構 梅本雅理事が講演

 全農は7月1日、農研機構の梅本雅理事の講演会をオンラインで開きました。役員・CO・参事、本所部局長、都府県本部長、ライン長らが参加しました。梅本理事は「日本農業の構造変化の方向について」をテーマに、2050年を見据えつつ、変化への対応の分岐点となる2030年という中長期の視点に立った、農業・JAグループ・本会のあるべき姿を描くため、日本農業の現状および将来に関する見解を話しました。


少子高齢化の進展と影響(財政、農村、食料消費)
梅本 雅(うめもと まさき)氏
1957年滋賀県生まれ。農水省農業技術研究所、農産園芸局、東北農業試験場、農林漁業金融公庫から、農研機構中央農業研究センター研究領域長、中央農業研究センター所長を経て現職

 日本社会の特徴である少子高齢化ですが、日本の人口は2050年には1億190万人になると言われています。現在より2000万人以上の減少です。65歳以上の人口割合も50年には総人口の4割近くと大きく増加することが推計されています。一方、世界の人口は現在70億人強、50年には97億人まで増えるだろうと推計されています。少子高齢化の社会、人口減はさまざまな場面に影響をおよぼします。

 人口減少は、特に農村地域、中でも山間地農業地域で非常に大きくなっていくと思われます。農林水産政策研究所は45年までに山間地農業地域の人口は15年の半分以下に減少すると予想しています。農村をどう維持するのかが大きな課題です。人口減少は農業生産に大きく関わる食料消費の減少と関連します。人口が減るので国民に対する総供給熱量は減ります。一方で世界の人口は大きく増え、世界の飲食料市場規模は15年の890兆円から30年には1.5倍の1360兆円になると見込まれています。ただ、国内の消費総額は人口が減るので当然影響を受けますが、一人当たりの食料支出は増えると推計されています(表1)。人口減少で世帯構成も変わり、単身世帯や高齢夫婦世帯といった少ない人員構成の世帯が増えると予想され、小ロット高単価での購入、中食への依存も増えると見込まれるのがその要因です。こうした人口変化に関わる消費形態から見た農業生産へのアプローチをどうするか検討が求められます。

 国の財政赤字が常態化する中、社会保障関係経費が財政を圧迫して現役世代が年金財政の根幹を維持するのは難しく、高齢になっても働き続けなければならない時代になる可能性があり、高齢者の働き場所の確保、働き方の選択、収入確保をどうするかが日本全体の大きなテーマになるでしょう。農業生産側も高齢労働力をどう活用するかが大きな課題になっていくと思います。

 

日本農業の構造変化の方向(農業労働力の動向)

 明治後半から高度成長期までは、農家戸数550万戸、耕地面積600万ヘクタール、農業就業人口1400万人という3つの数字はほとんど変わりませんでした。ところが、1960年代以降は一変して大きく減少しています。基幹的農業従事者は、1960年当時は1200万人でしたが、2020年には136万人と、約10分の1になり、特に減ったのは60歳未満で、人数は27万人です。60歳以上の割合は20年には80%に達しています。今後、35年には農業就業人口は64万人、1960年の比較でいえば4%、そのうち基幹的農業従事者は50万人弱になると予測されます。農業就業人口が増えている国もたくさんあり、そういう国と競争しながら輸出拡大することを考えなければなりません。2020年の統計では7割の経営体が後継者を確保できていません。常時雇用の人数あるいは常時雇用をした農家数は増え、平均雇用人数は2〜3人。年齢階層別では60歳未満の割合が高く、10万人近い雇用があります。今後は若い雇用労働力をどう確保するかが課題です。農業労働力は今後大きく減少することが予想され、農業経営にとって人の確保が最も大きな課題になります。ただ、労働力不足は日本全体の産業に共通しており、労働力確保の競争が始まります。条件が良ければ若い人たちは他産業に行ってしまう。労働力確保に向けて従業員への適切な労務管理、就業条件の整備、人材育成が求められます(表2)。

 

農地・食料供給の動向

 国内の耕地面積、経営総面積は一貫して減少傾向です。耕作放棄地面積の増加が影響していると思われます。農地も徐々に減少し、カロリーベース自給率は、主要先進10か国平均の自給率が高い水準で維持されているのに対し、日本は減ってきています。1960年以降自給率が減ったのは畜産物消費が増えたという消費構造の変化が要因でしたが、最近の自給率低下は国内生産量の低下が要因です。生産量指数は畜産物関係では増えていますが、耕種関係、米、野菜、果実などは減っています。労働力、耕地面積、国内生産量も減っている中で、技術水準を高め、作物の生産性を上げていかなければならないのが現状です。

作物の生産性の推移

 食料・農業・農村基本計画では、自給率目標と同時に生産努力目標を設定することになっています。10年後の生産努力目標はほとんどの作物で高くなっている中、大麦や大豆は20年前よりも目標が下がっています。普通、農業生産の歴史では収量設定は上がるものですが、20年前より低い収量目標が政府の努力目標として掲げられているのは、非常に印象的です。

 海外の水稲、麦、大豆の収量平均値の推移を日本と比べると、明らかに日本の収量の伸びは低水準で、世界と比べ特異な状況です。特に2000年代、収量の伸びが落ちています。労働力はお話しした通りですし、農地面積も減少傾向で下げ止まっていません。国内生産量が落ちる大きな要因は作物の収量水準に大きな変化がなく生産力の向上が見られないことです。海外と大きな格差が生じています。

農業経営の動向(規模拡大の進展)

 農業経営は大規模化が進んでいます。2020年は10ヘクタール以上層の割合が55.4%を占めています。100ヘクタール以上の経営体もごく一般にみられます。規模拡大が進むと労働力や機械、施設装備、技術、組織運営など、これまでとは全く違う経営対応が必要になります。家族経営の水田作を考えた場合に、平均40ヘクタールが限界規模といえます。家族経営から雇用型の経営への転換には経営内容が性格的に大きく変わることを意味します。雇用型経営の転換はそれに見合った組織管理を行うことが非常に大きな課題で、家族経営とは全く違う組織運営が求められます。100ヘクタールを超えると、経営者がすべてを見ることはできないので、優秀な中間マネージャーをどう確保するかという人的な要因が規模拡大の制約となります。それができないと効率は上がらない、むしろ不経済が増える状況が生じてきています。

 経営収支の変化

 水田作の20ヘクタール以上層では労働時間に占める雇用者の労働時間の割合が増え、およそ3分の1を占めています。今後の家族の年齢の変化を踏まえると、雇用への依存を高めざるを得なくなることが考えられます。水田作の経営の事例をみると農業所得は増えていますが、共済受取金、経営安定対策の補填金等の割合が大きく、その額が農業所得を上回る状況にあります。農業収入と農業の経費がほぼ等しい状況です。一方で雇用型経営が増える一方で後継者が確保できず、経営の手じまいをする方も多数いると感じています。経営を次世代へどう継承していくのかの検討が求められます。

集落営農組織の変化

 経営所得安定対策ができてから集落営農組織は一時期大きく増加しました(1万4832組織)。しかし、2011年以降は組織数がほとんど変わっていません。集積面積も変わらないか減っている状況です。法人化率は明らかに高どまり、直近の状況で約37%です。集落営農というのは集落全体が参加しているイメージですが、8割以上が参加している割合は約4割であり、参加率が半分もない組織も35%あります(表4)。平均集積面積は約32ヘクタールで規模の大きい家族経営と変わらないのが実態です。経営面積が5ヘクタールに満たない組織が26%。主たる従事者が2人未満というのが29%、不在も17%あり、営農基盤が盤石ではない組織が多いのです。平均構成農家数34戸が参加して営農を実施しているにもかかわらず、労働力の課題は解決できていません。集落営農組織が人の問題を解決するわけではないということです。

 農業生産を担ってきた集落営農組織も再編が不可避になってくるだろうと思います。一定の規模が必要になっており、集落単位の営農から、地域単位の営農への転換が求められるのだろうと思います。

 農業経営の技術対応の方向 ─データを活用した農業の重要性─

 スマート技術は非常に幅広い意味があり、象徴的なのが無人で動くロボットトラクター、ロボット田植機、運転をアシストする機械、あるいはドローンとか自動水管理や自動運転コンバインがあります。ロボットトラクターとの協調作業は約3割の労働力削減が可能になっています(表5)。ドローンや水管理はそもそも作業方法が変わるので非常に大きな作業時間の削減ができます。自動化農機あるいはアシスト農機は普及が進むと思います。

 強調したいのはデータを活用した農業の重要性です。スマート農業は広い意味でデータを活用した農業であり、ここに価値、意義があります。茨城県の経営事例では、作業ごとに非常に詳細なデータを収集し、工程表を作成し、年間を通じて一連の工程を念頭に作業計画を立てています。どれくらいの能率で植えたのか、以前と比べてどうか、あるいはある改善をしたら効果はどうだったかを定量的に見えるかたちにしました。「計数的な管理」をしていることが重要で、大規模経営を適切に管理していく一つの条件だと思います。

 この事例では収量コンバインで圃場別の収量データを取り、圃場別の収量データと農研機構の営農管理システムの予測値を使い、品種、作型をどう配置するかを再構築しました。データをもとに収量性が低いところは増肥をする対応を取り、収量は25%伸びました。面積拡大もあわせて総生産量が200トン近く増加しました。データの活用でこれだけの収量増加を得たということです。

 今後の重点化方向

 今後の重点化の方向です。まず労働力減少への対応ですが、若い世代を入れると同時に、中核的に農業を担ってきた高齢層をどう農業生産に活用するかを考える必要があります。その場合、高齢であることを意識した作業の軽労化、危険性・作業事故の回避が求められます。作業の機械化・自動化・知能化、作業方法の標準化(マニュアル化)、労働提供に対する報酬の在り方を検討すべきです。

 同時に若い世代の参入促進、家族内承継に依存しない新たな農業の継承システムなどが必要です。地域営農組織としての雇用、第三者への事業継承、大規模経営の出資・従業員派遣なども必要になると思います。雇用労働力の確保と人材育成ということで適切な労務管理が求められます。

 規模拡大への対応では今後も担い手への農地集積が予想されますが、面的な農地集積が重要です。規模拡大に伴い農業者が管理すべき対象が大きく増加するので、スマート技術、あるいはICTを活用した技術の導入は不可避です。とりわけデータの活用は重要です。雇用型の大規模経営では規模の不経済を発生させないような組織の管理、例えば作業体制の構築や作業班の仕組みなどが重要になります。

 農村の維持は地域内部で解決するのは限界があると思います。集落営農を維持するのも難しく、一定の事業規模を確保するなど農業経営と同様の戦略構築を図る必要があります。大きな転換期にある中で農業経営や営農組織全体に対する包括的な支援が必要になるでしょう。いろいろ支援策が考えられますが、特に大規模経営・担い手に対する「経営の見える化」は経営改善には不可欠と思っています。データは必須と思われます。

終わりに

 日本農業は国民への食料の安定供給という広い意味での社会的責任を持っていますので、食料の安定供給という社会的付託に応えるにはどうすべきかということを深く考える必要があると思います。消費者のニーズとしては鮮度の高い農産物を安定的に、高品質のものを供給してほしいという要望もありますし、一方では高齢化する農村をどう維持していくのか、さらに農業経営の発展をどう図っていくのか、環境保全と生産性の両立など多様な課題に応えていくことが求められます。そのためには、現場の農業者の皆さんに対する経営戦略、技術革新、営農支援などさまざまな場面で新たな対応が必要になってきます。データに基づいて現実を客観的・具体的に把握し、その方向性を冷静にとらえ、中長期的な視点でしっかりした対策を講じていく必要があると思います。そういう意味では支援機関、具体的には全農の皆さんをイメージしておりますが、農業経営、地域組織に対する包括的なコンサルティング機能、特に中長期的な視点を持ったコンサルティング機能の発揮というのが重要であると考えています。

カテゴリー最新記事

ページトップへ