対談

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【新春対談】全農経営管理委員会 菅野 幸雄会長×俳優 貫地谷 しほりさん

生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋に ~オールジャパンでの挑戦~

 

ウクライナ侵攻による物価上昇の影響

菅野幸雄会長 あけましておめでとうございます。

貫地谷しほりさん あけましておめでとうございます。今日は一消費者として、農業についてお話をお聞きしたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

菅野会長 こちらこそよろしくお願いします。さっそくですが、昨年2月からロシアによるウクライナ侵攻の影響によって物価が上昇しました。農業では肥料や飼料・エネルギーをはじめ、さまざまな資材を海外から輸入し、それが生産に結びついています。大切な食料をつくるための資材の高騰が生産者に影響を与えていることをご理解いただきたいですね。

貫地谷さん 消費者の立場としては、物価の高騰は喜ばしいことではありませんが、生産者さんたちも生活していかなければいけませんから、すごく難しい局面にきているのですね。

菅野会長 人間が生きていくために食料は不可欠ですが、消費者の皆さんにとって食料そのものに手が出にくいような状況は、われわれJAグループとしても生産者としても本意ではありません。政府にも対策をお願いしていますし、われわれも国産の飼料原料生産や未利用資源の肥料化など、オールジャパンで挑戦していきたいと考えています。

安全・安心な生産物を消費者へ
かんじや・しほり 1985年東京都生まれ。映画『スウィングガールズ』で注目を集め、NHK連続テレビ小説『ちりとてちん』で初主演。主演映画『くちづけ』でブルーリボン賞主演女優賞受賞。主な出演作に、ドラマ『女くどき飯』、舞台『ガラスの仮面』『ハムレット』など。大河ドラマは『風林火山』『龍馬伝』『八重の桜』『おんな城主 直虎』に出演。NHKドラマ10『大奥』(8代・徳川吉宗×水野祐之進 編)が1月放送予定。また、主演映画『オレンジ・ランプ』が2023年公開予定。

貫地谷さん 昨年は、全農さんが創立50周年を迎えたとお伺いしました。これまでどのように歩まれてこられたのでしょうか。

菅野会長 全農の一番の使命は、国民の皆さんへおいしいもの、安全なものを安定して供給することです。それと同時に、日本の農産物の品質の良さと食文化のすばらしさを海外へ発信していくことも使命として取り組んできました。

貫地谷さん おっしゃるように、日本の食材は安全・安心というイメージが強いですから、ぜひこれからの50年も継続してほしいですね。

菅野会長 安全・安心という面では、野菜でも果物でも、いつ肥料をまいて、いつどんな農薬を散布したなど、生産履歴を記録する取り組みも行っています。

貫地谷さん そうなんですか。最近は、生産された方のお名前や顔写真がついた商品が増えましたし、産地直送とか朝採れと書かれたものも増えて、すごくおいしそうに見えます。売り切れていたりすると、なんで買えなかったんだろうって悔しくなります。

菅野会長 そこがビジネスのコツかもしれませんね(笑)。各地の直売所でも、この野菜はAさんが作ったものがおいしい、これはBさんがおいしいというように、ファンがついています。そういう方の野菜が直売所に並ぶ日は、開店前から行列になることもあります。おいしいものは、消費者の皆さんが自分で見つけるんですよね。

貫地谷さん 私も太るなら、おいしいものを食べて太りたいと思っています(笑)。

菅野会長 それはたしかにそうですね(笑)。俳優さんは体力づくりのためにもしっかり食べないといけませんね。

みんなでお米を食べるのが一番おいしい

菅野会長 貫地谷さんは昨年8月に舞台に出られたそうですね。

貫地谷さん 井上ひさしさんの戯曲で『頭痛肩こり樋口一葉』という舞台をやらせていただきました。演劇をはじめエンターテインメント界はずっとコロナに振り回されていますので、最後まで乗り切れるのか不安でしたが、この作品は、私の血となり肉となる仕事になるだろうと思ってお引き受けしました。おかげさまで、地方公演もすべてやりとげることができて、本当によかったと思っています。昨年は、この目標が達成できて、とても豊かな一年でした。

菅野会長 お客さまの反応はいかがでした?

貫地谷さん 大阪は笑いに厳しいですね(笑)。一方、岡山県の津山市では、何をやっても笑ってくださって、すごい芝居をしてしまったんじゃないかと錯覚するほどでした。

菅野会長 笑いにも地域性があるんですか。

貫地谷さん そうなんです。私たちは本当にお客さまに支えられているんだなと、舞台を通してつくづく感じます。

菅野会長 従来でしたら、地方公演では皆さんでその土地のおいしいものを食べに行ったり、地酒を堪能したりできたでしょう。

貫地谷さん 昨年の舞台では、先輩俳優さんが、お釜とミキサーを持ってきてくださったんです。現地でお野菜や果物を買ってきて、スムージーを作ったり、ご飯を炊いてみんなで食べたのはすごく楽しかったです。

菅野会長 みんなでお米を食べる、これが一番おいしいんですよね(笑)。

貫地谷さん おっしゃる通りで、本当においしかったですし、身も心も健康的に過ごせました。

次世代の担い手へ技術の継承

貫地谷さん 今は農業をやりたいという若い人が増えているそうですね。

菅野会長 そうですね。全農は担い手の育成にも力を入れています。たとえば、しばらく誰も手入れをせずに荒れてしまった耕作放棄地をきちんと整備して、農業のプロを目指す若い方に入ってもらっています。ドローンを活用して農薬を散布したり、肥料のタイミングをAIに分析させたり、必要な農機具の安全な使い方も研修したりして、効率的な農業ができるような環境を後継者に提供しています。

貫地谷さん 農産物を安定的に供給するという大切な役割の中で、生産者さんの負担が軽くなるのは、すごく良いことだと思います。

菅野会長 そうですね。スマート農業を進めることは体が楽になるだけではなく、空いた時間で農作物に他の手をかけることができるようになります。生産する品目を少しでも増やせるようにローテーションを一緒に考えて、全体的な収益が上がるようにアドバイスしながら、若い方に託しているところです。

貫地谷さん きちんと収入につながる仕組みができているんですね。今は一年中なんでも食べられますが、それは生産者さんあってのことですし、すごいなぁ、ありがたいなぁといつも思っています。若い人たちにもぜひ続けていってほしいですね。

菅野会長 そうですね。他の産業でもそうですが、今は団塊の世代が引退する時期にきていて、技術の継承が問題になってきています。農業の現場でも、高齢の生産者さんたちは戦後から培ってきた素晴らしい技術を持っています。自分が食べる分は気楽に作ってもいいですが、消費者の皆さんにお金をいただいて販売しようとなると、ある程度の技術が必要です。われわれは名人の栽培方法をデータベース化して、研修中の若い方にノウハウを教えることも始めています。

貫地谷さん 私も以前はお芝居の世界のなかで、自分の気持ちをどこまで本物に持っていけるかが大事だから、技術は必要ないと思っていたんです。でも、リアルに表現するためには、技術が感情を押し上げてくれるものだと気づきました。やっぱりすてきな俳優さんたちは、たくさん技術をもっていますので、見ていてすごいなと思う演技は自分でも試したくなります。

菅野会長 農業も農産物という作品を作るという意味では、俳優さんと通じるものがありますね。いくら名人のデータベース通りに作ろうとしても、基本的なことしか分かりませんから、どのタイミングでどんな工夫をしていくのか、生産者は研究を重ねる必要があります。先輩たちは引き出しをたくさん持っていますが、その引き出しをあけてくれるかどうかは、こちらが一生懸命やっているかどうかに関わってきます。この名人に追いつこうと一生懸命に勉強して努力して、それでも「どうしてもここが分からない、教えてください」とお願いすれば、誰も「知らんぞ」とは言いませんし、教えてくれるはずです。

貫地谷さん 私は10代からこの仕事をしていますので、いい子でいなければいけないという感覚が自分をしめつけていた時もありました。かつて『ちりとてちん』でご一緒した渡瀬恒彦さんから、誕生日にお手紙をいただいて、「貫地谷がこれからすることは、惑うことです」と書いてあったんです。仕事でも日々の生活でも、これでいいのか、これはどうなんだろうと迷いながら手探りで進んでいくことが、すごく大切なんだと、渡瀬さんの言葉から学び取りました。

菅野会長 技術の向上のためには、貫地谷さんもわれわれも、迷ったり悩んだりしながら進んでいくしかありませんね。私のふるさと、愛媛県はミカン栽培が盛んですが、愛媛のミカンとして共同販売する場合は、みんなライバルだけど仲間なんです。ライバルがいないと技術の向上はありません。今年よりは来年、来年よりは再来年とステップアップできるように仲間同士で切磋琢磨(せっさたくま)して技術を高める、その繰り返しです。

貫地谷さん 皆さんで努力しあって、農産物の品質を向上させているんですね。

国消国産への挑戦と地域の活性化に向けて

菅野会長 私の印象ですと、貫地谷さんは時代劇がお似合いだなと思ってるんです。

貫地谷さん ありがとうございます。実は1月からNHKのドラマ『大奥』に出演させていただいています。男女逆転バージョンの大奥で、私は徳川吉宗に仕える加納久通の役です。脚本も素晴らしいですし、おもしろい作品に仕上がっていると思いますので、ぜひご覧いただきたいです。

菅野会長 それは楽しみですね。必ず拝見します。

貫地谷さん ありがとうございます。菅野会長は、今年はどんなことに挑戦したいとお考えですか?

菅野会長 チャレンジしなければいけないことがたくさんあります。ご存じのように、日本は資源がありませんから、農畜産物の生産に必要な資材は輸入に頼らざるを得ません。肥料や飼料の世界的な調達競争は激しくなってきていますが、全農50年の歴史の中で、海外からの集荷網を強化し、取引先とも長く信頼関係を築いてきていますので、これからも国民の皆さんに安定的に食料を提供していけるように努力していきます。

貫地谷さん 今まで当たり前のようにスーパーで並べられているものを買って食べていましたが、改めてたくさんの人によって自分の命が支えられていることを感じます。生きていくためには食事が不可欠ですから、自分が口にするものはどこから来たものなのか自分の目でよく見て、きちんと理解したうえで食べて、健康に生きていきたいです。

菅野会長 これからは国産をさらに推進して、国内で消費するものは国内で作ろうという「国消国産」を強化して取り組んでいきます。それから、日本には生産から販売ルートまで基盤がしっかりされている優秀な企業がたくさんあります。それらの企業とも連携して、新しい商品づくりに取り組んでいます。たとえば、特定の地域でしか作られていない日向夏を伊藤園さんと連携してジュースにしたことで、日向夏を全国にPRできます。自分が作った果物が全国に知られることで生産者さんの喜びにつながっていますし、地域も活性化します。生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋になるのがわれわれ全農の役割ですから、次の50年に向けてさらにレベルアップしていきたいと思っています。

貫地谷さん 安全・安心の全農さんとコラボした商品をたくさん目にする機会が増えるのは、とても楽しみですし、すてきな商品開発を期待しています。今日は楽しいお話をありがとうございました。

菅野会長 こちらこそ、ありがとうございました。これからも身体に気を付けて頑張ってくださいね。テレビの前で応援しています!

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