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広報・調査部

「食と農を 未来へつなぐ」(3)全農事業担当理事インタビュー 齊藤良樹常務理事(畜産酪農事業担当)

齊藤良樹常務理事

 令和4年度の取り組みと5年度に向けての戦略について、畜産販売事業・畜産生産事業・酪農事業を担当する齊藤良樹常務理事に聞きました。


――さまざまな事象があった激動の年でした。あらためて、令和4年度はどのような一年でしたか。

 総括すると、予想もできないようなことがいくつか発生した、極めて稀有(けう)な年だったと思います。次年度に向けても、また同じような状況になることを想定しておかなければいけないと感じています。

 まず、鳥インフルエンザの発生です(5年2月10日時点で76事例、約1478万羽が殺処分)。多くの鶏が殺処分され、過去に例を見ないスピードと規模で発生しています。徹底した防疫対策だけで耐えうるのか、これからも考え続けていかなければならないと思っています。また、鶏卵・食鳥相場は過去最高値水準で推移しています。

 一方、酪農は配合飼料に加え輸入粗飼料も高騰しており、厳しい経営状況となっています。酪農は乳業メーカーとの交渉で年間の乳価が決まるため、そこから飼料代などの経費を引くとおおよその収入を見通すことができ、市場相場に左右される他の畜種より安定した経営を営めることが特徴でした。ところが、乳業メーカーとの値上げ交渉で妥結するまでには一定の時間を要するため、昨今の飼料などの経費急騰をただちに乳価に反映することが難しく、依然として非常に厳しい状況が続いています。

――そのような厳しい事業環境の中で4年度は主にどのようなことに取り組みましたか。

飼料価格の高騰と安定基金制度

 中国の穀物需要の拡大に加えて、ウクライナ侵攻による世界的な穀物需給のひっ迫や円安が重なり、配合飼料価格は4年7-9月期に過去最高となりました。畜産経営に与える影響は大きく、配合飼料安定基金の補てんや国の緊急対策の発動が過去にない水準で実施され、補てん財源の確保が最大の課題となりました。そこで、全農は異常基金財源の追加積み立てと通常基金財源の積み立て・借り入れなどを実施し、生産者の経営や資金繰り支援を行う立場を明確にしました。

酪農の理解醸成と牛乳・乳製品の消費拡大活動

 酪農の理解醸成や牛乳・乳製品の消費拡大のため、関係部署や協力会社などと連携して、商品開発をはじめ、さまざまな活動に取り組みました。商品開発では、牛乳を50%以上使用した「日本の酪農を応援」シリーズ第3弾として「抹茶ミルク」を発売しました。乳牛は人間と同じで、子供を産まなければ乳は出ません。「乳牛」という種類の牛がいるわけではないのです。約14カ月育てて成牛にし、妊娠・分娩(ぶんべん)までには2年ほどかかります。それからようやく乳が出るようになるのです。また乳量も季節によって変わります。牛乳を使用した商品の販売を通じて、酪農について知ってもらう機会にもなるよう取り組みました。

 他にも、本会営業開発部のリードで、農協牛乳発売50周年を記念したカップ乳飲料シリーズ「農協ミルク」、他企業と連携して全農ブランド「ニッポンエール」とのコラボレーション商品「国産ミルク&カルピス」「ニッポンエール メロン&ミルク」なども開発し、牛乳の消費拡大に取り組みました。

 また、主な理解醸成活動としては、協同乳業(株)と連携して生産者と消費者をリアルタイムでつなぐ「オンライン牧場体験」、全農が出資する乳業メーカーや県本部と協力して、全国14会場で牛乳の無償配布を行った「牛乳のチカラを、あなたに。」キャンペーン、本会フードマーケット事業部と連携し全農直営飲食店舗で牛乳やスキムミルク(脱脂粉乳)を無償提供する「日本の酪農応援フェア」を開催するなど、関係機関と協力し幅広く展開しました。併せて、SNS(交流サイト)を活用してレシピを提案するなど消費喚起にも取り組みました。

――脱脂粉乳も過去最大の在庫を抱えていると言われていますが。

 コロナ禍などで在庫が積み上がりましたが、国や乳業、組織、団体などと連携して在庫解消に取り組んだ結果、ここにきてようやく減少傾向となり、昨年12月末時点での推定在庫が約8万tになりました。脱脂粉乳は年間の生産量が16万tほどで適正在庫は6万t程度と言われており、依然として高い在庫水準となっています。全農は増加してきた国産脱脂粉乳の在庫に対する消化促進策として、畜産生産部と酪農部が連携して、脱脂粉乳の代用乳(飼料)などへの利用を検討し、2年度以降、輸入脱脂粉乳から国産脱脂粉乳への切り替えに取り組んできました。3月中には100%国産脱脂粉乳を使った代用乳を製造するようになります。このような脱脂粉乳の新たな出口対策ができるのも、生販両面の機能を持った全農の強みと言えます。

サステナビリティへの取り組み

 持続可能な畜産事業を目指し、4年度から関係部署と連携をすすめ、(1)気候変動対策(2)資源循環・耕畜連携推進、食料安全保障(3)アニマルウェルフェアなど、重要課題を整理してきました。まず、地球温暖化対策として、農研機構と連携し牛のゲップによるメタン発生の軽減対策に取り組んでいます。耕畜連携では、今年2月からJA鹿児島県経済連と全農宮城県本部が連携して、鹿児島県と宮城県との間で堆肥ペレットと稲わらの広域流通が開始されました。今後、持続的な取り組みにするため、物流の効率化などにも取り組みます。全農は農水省の広域流通への運賃補助事業の実施主体となり、取り組み全体をサポートしていきます。

 また、子実とうもろこしの生産について、宮城県のJA古川管内で実証試験が実施されています。今年度は91.4haの作付けでしたが、次年度の作付面積は今年度を上回る見込みと聞いています。全農はJA全農北日本くみあい飼料(株)で飼料原料として全量使用していく予定です。課題はありますが、1つ1つ克服しながら取り組みを拡大していきたいと考えています。

 なお、次年度には畜産総合対策部内に「畜産サステナビリティ推進室」を立ち上げ、さらに取り組みをすすめます。

――今年度は全共の開催年にもあたりました。それに合わせたイベントも多い一年でしたね。

次世代担い手育成の取り組み

 全農は、担い手が減っていく中で、次世代育成にも力を入れています。

 「和牛のオリンピック」といわれる全国和牛能力共進会が4年10月に鹿児島県で開催され、来場者は延べ30万8000人と大いに盛り上がりました。この第12回大会から新たに、肉牛の部に「脂肪の質評価群」と特別区に「高校及び農業大学校」の部が新設されました。結果は、主催県である鹿児島県が全9部門のうち、6部門で1位となり、種牛の部(第4区)では内閣総理大臣賞も受賞しました。全農は会場で全農グループの取り組みなどを生産者や学生、一般消費者らに直接アピールしました。

和牛全共の全農グループ特設ブースでは事業や資材などを紹介
畜産資材をパネルで紹介した和牛全共の特設ブース

 

 また、全農が主催している「高校牛児(こうこうぎゅうじ)」たちの大会「和牛甲子園」は、新型コロナウイルスの感染拡大から直近2年間はオンライン開催でしたが、第6回大会は3年ぶりに今年の1月19日、20日に実開催(現地実出席とオンラインのハイブリット形式)しました。参加校は過去最高の23道府県40校(うち初出場校は5校)、出品牛が55頭となり、年々拡大しています。今年度は総合評価部門の最優秀賞に岐阜県立大垣養老高等学校が輝きました。また、「先輩高校牛児から後輩へ送る熱きメッセージ」と題して、第1回、第2回大会で最優秀賞を受賞した飛騨高山高校の卒業生から進路選択の事例研究として、体験に基づく講話をしていただきました。

 酪農では4年11月に第40回全農酪農経営体験発表会を開催しました。こちらも今年度は3年ぶりに有観客の実開催で、6人の酪農家に自らの経営を発表いただきました。結果は、北海道別海町のJA道東あさひの酪農家が最優秀賞を受賞しました。併催した酪農の夢コンクール表彰式では、発表会に参加した酪農家と夢コンクールに参加した学生4人との座談会も開催し、酪農の未来を担う学生に向けて、酪農家がアドバイスとエールを送りました。

第6回和牛甲子園に出場した高校牛児の皆さん
第40回全農酪農経営体験発表会の発表者ら

 
――各地のくみあい飼料も地元の次世代育成にかかわっていますね。
 
 そうですね。例えば全共に参加する高校の生徒に安全靴などの資材を提供するなど、表に出ないところで地元の県本部と協力し貢献しています。
 
――昨年10月にJA全農くみあい飼料ホールディングス(株)が設立されました。その狙いは?
 

組織統合などによる事業競争力の強化の取り組み

 JA全農くみあい飼料ホールディングス(株)は、JA全農北日本くみあい飼料(株)、JA東日本くみあい飼料(株)、JA西日本くみあい飼料(株)、ジェイエイ北九州くみあい飼料(株)(以下4社という)を完全子会社とする持株会社です。これまでは、地域を重視する地域別飼料会社としてやってきましたが、今後は全国という視野で地域の意見をきちんと反映できる体制づくりをしていかなければいけないと考えています。4社の合併により事業運営の効率化や間接経費の削減などを実現し競争力を高めなければなりません。また、製造技術・営業ノウハウの高位平準化、専門人材の採用・育成などに取り組み、地域ごとに強化してきた飼料会社の機能を統合・高度化することにより、より一層生産者の事業を支援していきます。そして3年以内には持ち株会社を含めた5社の合併を目指しています。

 また、同年6月に協同乳業(株)が全農のグループ会社となりました。生産者にとって一番乳価が高いのは牛乳などの飲用向けです。そこで市場をしっかり維持・拡大していくため、協同乳業を中核とする農系乳業と連携した牛乳などの供給体制の構築をすすめ、農協牛乳や地域に根ざした牛乳の販売力強化に取り組んでいます。農系総合乳業である雪印メグミルク(株)とも連携し、それぞれが農系乳業として飲用向け市場の維持・拡大を通じ、酪農家の手取り向上に貢献できる事業を目指していきます。

――最後に、まだまだ厳しい環境が懸念される5年度に向けた事業全体の方針を教えてください。

 中期計画の2年度目ということで、中期計画で掲げた課題に引き続きしっかり取り組んでいきます。とにかく何が起こるか予測不能な環境の中で生産者が経営意欲を失い、離農が、特に酪農で続出している状況です。そのような中でわれわれはJAグループの一員として、生産者の生産基盤をしっかりと支える仕組みづくりをしていきたいと考えています。「生産者なくして事業なし」です。短期的ではなく中長期的な視点を持って、次世代育成にも力を入れていきます。

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