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連載 食料への権利と農業(6)若い世代が考える食料安全保障 新潟食料農業大学 准教授 青山 浩子

“農村派”は生産拡大や所得安定  “都市派”は消費者の動向を重視

 現地事例や識者の見解をもとに、「食料への権利と農業」には何が必要かを考えるシリーズ。最終回の第6回は新潟食料農業大学准教授の青山浩子さんが食料安全保障の課題を報告します。


学生にアンケート・分析
新潟食料農業大学 准教授 青山 浩子

 ウクライナ紛争や円安に端を発し、あらためて議論されるようになった食料安全保障。このテーマに若者はどう向き合っているのか。新潟食料農業大学の1科目として、農業や農村に関する基礎的な知識を学ぶ「農業・農村の暮らし」で、食料安保とは何か、なぜいま取りざたされているか――について講義を行い、終了後にその場でアンケートを取りました。

 講義前から食料安全保障という言葉を知っていたという学生は、162人のうち124人(約77%、図1)。授業やメディアで見聞きしている機会が多いためと思われます。ただ、「食料安全保障の意味を知っていたか」と尋ねると、「詳しく知っていた」「ある程度知っていた」を合計しても74人(46%、図2)にとどまりました。

 具体的にイメージしやすくするため、「食料安全保障で重視すべき項目」として、「国内生産拡大」「備蓄拡大」「輸入拡大」「(農家への)所得補償」「農業資材(高騰時の)補塡(ほてん)」「生活困窮者(への食料)支援」「食品ロス削減(をはじめとする消費行動)」の7項目を示し、重視すべき2項目を選んでもらいました。

 

 食料・農業・農村基本法では、平常時および非常時への備えを目的に、国内農業、輸入、備蓄を組み合わせた食料安保の確保をうたっています。ただ、食料安保が持つ意味は広がっています。昨今の飼料や資材などの高騰による農業経営の悪化は、食料安保の面からも不安材料となっています。また食品ロスを減らすなど消費行動、生活困難者への日常的な支援も食料安保と無縁ではありません。学生に幅広い観点から捉えてほしいという思いから項目を掲げました。

 回答は図3の通り。「国内生産拡大」「所得補償」「食品ロス削減」の回答率が高い一方、「輸入拡大」を選択した学生が極めて少ないという結果になりました。輸入品が相次いで値上げされ、さらには新興国で食料需要が高まっているため、輸入依存型の食料確保は現実的ではないと考える学生が多いのでしょう。「国内生産を拡大させる必要があり、所得補償を含めた農家の経営安定がその前提となる。ただし、農業者だけに委ねるのではなく、国民全体で食料を大切に扱う習慣を身に着け、食品ロスを出さないようにしていく」――。若者なりの食料安保への考えが浮かびあがりました。

 
将来の農業者をいかに育てるか

 学生たちの食料安保への考え方は、農村と都市のどちらを志向するかにより、異なります。同じ科目の初回の講義で「生活の場として農村と都市のどちらが好きか」という質問をしたところ、答えはほぼ半々。ちなみにこの講義では毎年同じ質問をしており、比率は3年間連続で変わりません。

 “農村派”と“都市派”では、食料安保で重視する項目に違いが出ました(図4)。農村派の学生は、所得補償をもっとも重視しており、国内生産拡大、食品ロス削減が続きます。一方、都市を選んだ学生は、国内生産拡大が最大で、次が食品ロス削減、3番目が所得補償となりました。

 農村派の学生は、「自然が好き」「のんびり暮らしたい」など理由は多岐にわたりますが、「実家の農業を継ぐ」「地域活性化に関わりたい」など明確な目的を持つ学生も一定数含まれます。彼らは両親や周囲から、農業の経営面や労働面の厳しさを見聞きする機会も多いはずです。それゆえ、国内生産の拡大には、所得安定が前提になると考えているかもしれません。

 一方、都市派の学生は、国内農業への期待とともに、食品ロス削減など消費者のふるまい方が食料安保に影響を及ぼすと考えています。学生たちの回答が日本人全体の考えを映しているとはいえませんが、こうした消費者が社会の主たる購買層になれば、日本の農業の未来は暗くないでしょう。

 予期せぬ環境変化によって、食料安全保障を国全体で考える形となりました。自給率の低い麦・大豆の生産振興をいかに図るか、輸入に頼る飼料や肥料をどう国内で調達するかなど喫緊の課題への議論が集中しています。しかし最終的には、国内生産を担っていく将来の農業者をいかに輩出し、育んでいくかが、長期的な食料安保につながっていきます。

 「どうすれば農業・農村が活性化するか」という問いに対し、「スマート農業」「6次産業化」を挙げる学生が多いものの、「子どもの頃からのさまざまな食農体験」が次に続きました。食農体験と答えた学生の多くが、自らも体験がきっかけで、農業・農村への関心が高まったと記述しています。農村派、都市派を問わず、若い世代にインパクトを与える食農体験や食育。食料への不安が増している今、あらためてその意義を考えてみる必要があります。

※図1〜図4は、すべて、新潟食料農業大学の必修科目「農業・農村の暮らし」の受講生を対象とした調査結果から抽出したものである。

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