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広報・調査部

「食と農を 未来へつなぐ」(6)全農事業担当理事インタビュー 桑田義文代表理事専務(輸出事業・営業開発担当)

 令和4年度の取り組みと5年度の展開について、輸出事業・営業開発も担当する桑田義文代表理事専務に聞きました。


――令和4年度はどのような一年でしたか。

 日本の農業にとっては、とてもつらい一年でした。ロシアによるウクライナ侵攻に端を発して、肥料・燃料・飼料価格が軒並み高騰する一方で、農産物価格は需給で決まるためコスト転嫁がなかなかしづらい、生産者にとって大変な一年であったと思います。

輸出事業の機能を再認識

――そのような中、輸出事業はどうでしたか?

 プラスとマイナスの材料が入り混じった状況だったと思います。円安が輸出事業にプラスに働きました。また、米の生産地である米国・カリフォルニアでの水の確保が難しい状況になり、カリフォルニア米の生産に黄色信号がともっており、価格差はまだあるにしても、日本産米の輸出には追い風が吹いていると感じています。

 一方、マイナスの材料もあります。例えば鳥インフルエンザの影響で、香港へ向けた鶏卵の輸出をセーブせざるを得なくなったこと、米国への牛肉輸出で、ブラジル産牛肉の増加により低関税輸入枠が早い時期に消化され、高い関税が足かせになったことなどが挙げられます。

 非常に苦しい状況の中ではありましたが、供給過多になると価格が下がってしまう国内市場から輸出に振り向けることで、価格の上昇や維持が見込める、輸出事業の持つそういう重要な機能を再認識した一年でもありました。

営業開発は総合力を発揮

――営業開発はどうでしたか。

 平成29年9月に全農の営業拠点として設置された営業開発部は、全農グループの販売事業を担う全国農協食品㈱、全農パールライス(株)、JA全農青果センター(株)、JA全農たまご(株)、JA全農ミートフーズ(株)、全農チキンフーズ(株)、協同乳業(株)と共に、共同営業に取り組んでいます。令和4年度は特に総菜事業に力を入れました。総菜は米や青果物、肉、卵とさまざまな食材を使います。営業開発部がつなぎ役となって直販7社間の連携を強化し、量販店や中食業者へ積極的に商談を仕掛けるなど、総合力を発揮できたと感じています。  また、商品開発にも力を入れていますが、特にニッポンエールと農協シリーズはメディアに取り上げられる機会も増え、全農の商品の認知度が上がっていることを実感できた一年だったと思います。

 
 
 
――それぞれの取り組みで特に注目すべきことは何でしょうか。
 輸出事業では(1)マーケットイン(2)アライアンス(3)投資とリスク管理――の3本柱を基本方針にして取り組んでいます。投資の一例として、全農インターナショナル香港(株)とJA全農たまごが出資し、香港に鶏卵の加工製造会社「全農國際香港食品有限公司」を設立したことが挙げられます。日本で卵焼きや温泉卵などを製造し、冷凍やチルドで輸送することも可能ですが、やはりおいしさの面では劣ります。そこで原料供給するJA全農たまごと、国内の鶏卵加工品製造で高い評価を得ている京(みやこ)食品(株)の協力を得て、現地に鶏卵加工工場を整備しました。現地で出来たての卵焼きや煮卵などの鶏卵加工食品を提供できることは香港の消費者にとって大きな魅力になると考えています。
 また、違う視点では知財権にかかわる取り組みがあげられます。ブドウ「シャインマスカット」など日本の優秀な品種の海外流出が問題となっています。中国では日本の30倍以上の面積で「シャインマスカット」が栽培され、日本からの輸出事業のマイナス要因にもなっています。国も大きな問題意識を持っていますし、これまで育成者権者たちは歯がゆい思いをしてきました。そこで、農研機構をはじめ、(一社)日本種苗協会、育成者権をもつ県行政など9者で「育成者権管理機関支援事業実施協議会」を設立し、流出防止対策や海外での品種登録支援などに取り組んでいくことになりました。
 次に営業開発です。全農の販売事業のミッションは、全国各地の生産者が作ったこだわりの農畜産物に付加価値をつけて実需者に販売し、生産者の所得を確保することです。地域の貴重な果汁を使ったグミは3月末時点で39都道府県53種類、商品化しました。セブンイレブン向けには、産地をうたいながら各地の果汁を使ったサワーを展開しています。地域の果汁原料は量的に限りがあり、全国展開はできないため地域限定、期間限定になります。それでも一年を通してみると、各産地のサワーがカレンダーのようにつながります。逆にそれが評価されて、サワー類でその期間の地区販売1位の評価を獲得、再販やセブンプレミアムでの展開につながっています。そのような販売ができるのは、JAグループならではだと思っています。
 また、「酪農応援」に共感いただいた(株)伊藤園、アサヒ飲料(株)と共に、牛乳や脱脂粉乳を使った商品づくりをすすめました。ただ「おいしい」「売れればいい」だけではなく、日本の農畜産業が抱えている悩みや課題の解決をミッションに背負って商品開発に取り組むことができたと感じています。
「全農國際香港食品有限公司」の開所セレモニー
「全農國際香港食品有限公司」の卵焼き製造ライン
 
――力を入れていると言われた総菜事業については?
 中でも、コープデリ生活協同組合連合会向けに開発したプラントベースフード商品(植物由来の原料を使用した食品)では、DAIZ(株)(熊本)の国産大豆で作ったミラクルミートを使い、「国産発芽大豆を使ったふわっとピーマン詰め」「国産発芽大豆と国産野菜で作った米皮春巻」「国産発芽大豆を使った中華まん」の3商品を開発しました。肉の代わりとしてのプラントベースフードではなく、プラントベースフードそのもののおいしさが伝わる商品づくりにこだわり、コープデリ生活協同組合連合会にも好評いただき、販売者となったJA全農ミートフーズが、コープデリ生活協同組合連合会から表彰されました。
コープデリ生活協同組合連合会向けの「国産発芽大豆を使ったふわっとピーマン詰め」

市場向け販売や商品開発を強化

――令和5年度の展開について、教えてください。

 輸出事業は三つの基本方針を堅持することはもちろんですが、さらに産地の方と直接話す場をつくりたいと考えています。そして、全農グループに輸出の一部を任せてもらえるような関係性を築いていきたいです。特に、市場出荷が中心となっている青果物には力を入れたいと考えます。

 営業開発では、従来の大量に生産して大量に輸送し、市場などで大量に販売するという全農の事業モデルに、変化が出てきていると感じています。もちろん、市場向け販売は販売事業の中で一番大きく大切な事業です。しかし、それだけではいけないと思っています。5年度も全農、グループ各社、関係する食品メーカーや卸業者など、いろいろな人たちとつながって商品開発し、販売事業に取り組んでいきます。そして全農グループの新しい販売事業の姿、一歩前進した姿を見てもらいたいと考えています。それからブランド戦略では、ニッポンエールや農協シリーズのコンセプトを明確にして、ぶれずに商品開発していきます。そして商品が世に出ることで、産地や農畜産物の認知度を高めていきたいと思っています。

(インタビューシリーズは今回で最終回です)

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