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広報・調査部

パンデミックが導く 世界食糧危機に備えよ

ふじい・さとし 京都大学大学院工学研究科教授および京都大学レジリエンス実践ユニット長
1968年奈良県生まれ。京都大学工学部卒、同大学院工学研究科修士課程修了。スウェーデン・イエテボリ大学心理学科客員研究員、京都大学大学院工学研究科助教授、東京工業大学大学院理工学研究科教授を経て、2009年から現職。内閣官房参与(第2〜4次安倍内閣)、『表現者 クライテリオン』(啓文社書房)編集長、カールスタッド大学客員教授。

京都大学大学院工学研究科教授  藤井 聡

 世界で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症。日本では緊急事態宣言が解除され、社会経済活動が徐々に再開する中、これからどのようなことが起きるのか。藤井聡京都大学大学院工学研究科教授に今後の食糧事情について寄稿してもらいました。


社会経済活動の制限は当面「年単位」で解除できない

 新型コロナウイルスの感染拡大は、今小休止を迎えている状況だが、その対応は年単位で進めねばならないと覚悟しておく必要がある。

 そもそもこのウイルスは軽症者や無症状者が多く、感染者全員を見つけ出し、隔離していくことがほぼ不可能なものだからである。だから、ワクチンか効果的な薬が出来上がるか、多くが感染して効果的な抗体を身につけることで「集団免疫」が獲得できるかのいずれかが成立するまで、感染者数が完全に駆逐されることはないのである。仮に、日本国内で「完全駆逐」が成功したとしても、海外との人的物的交流を続けている限り、海外から再び、新型コロナウイルスが侵入することは避けがたい。そして、ワクチンの完成には数カ年がかかると見込まれているのである。

パンデミックをもたらしたグローバリズムが、パンデミックで終焉(しゅうえん)する

 そもそもこのウイルスは、昨年時点には中国の武漢を除いて世界中に感染者は一人もいなかった。しかし、武漢で初の感染者が出てから瞬く間に武漢全体で拡大、そして、中国全体にも飛び火した。そして今や世界中を観光とビジネスで訪れている中国人が、世界中の国々にそのウイルスをまき散らかしてしまったわけだ。つまりこのパンデミックは「グローバリズム」が生み出したものなのである。

 いったん収束しても、人の国際的な動きが少しでもあれば、再度の感染拡大が生ずることになる。こうした背景から、感染が拡大した今、多くの国々が渡航制限をかけるに至っている。

 その結果として、そして今明確に、グローバリズムは抑制される方向となっているのである。

世界食糧危機に備えよ

 ところでこのパンデミックゆえに今、真剣に警戒されているのが「世界食糧危機」だ。

 そもそも、世界各国は、経済産業活動を「停止」することで感染を押さえ込もうとしている。したがって、食料もまた、生産量が大きく縮小することは避けられないのだ。

 もちろん、それぞれの国は、それぞれの国の国民が生きていくために必要な最低限の食料の生産は何とか確保するだろう。しかし、外国に輸出するためのものは、早々に「生産カット」されていくことは必至だ。そもそも、必要最低限の食料生産さえ確保することが危ぶまれるかも知れないのだから、金もうけのための外国への食料輸出が縮小していくことは必至だ。

 こうなれば、カロリーベースで言えば4割程度しか自給できていないわが国日本は、深刻な食糧危機に直面することになる。

 ついては今からでも遅くない。近い将来必ず訪れる食糧危機に対応するために、農業の生産力を増強する対策を速やかに始めねばならない。同時に、日本で輸入に頼っていた食材ではなく、日本で供給力が一定確保されている米に対する、国民の依存度を高めていく必要がある。

 そもそも、幸か不幸か特効薬が開発されるまで、それなりの時間がかかることが危惧されている。だとすれば、その時間を使って、自給率を高めるための供給対策と需要対策を徹底的に進めていかねばならないのだ。

藤井教授のビデオメッセージはこちら
https://youtu.be/wayknES3jjU

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