特集

特集
広報・調査部

With/Afterコロナ時代の食と農

 コロナ禍は食農業界にも大きな影響を与えました。グローバル視点で見る今後の農畜産物流通について、農林中金総合研究所取締役基礎研究部長の平澤明彦氏にお聞きしました。


グローバルなコロナ禍による食料安全保障上の課題と農畜産物流通(上)

株式会社農林中金総合研究所 取締役基礎研究部長 平澤 明彦氏

研究分野:欧米先進国の農業政策、世界の食料需給と穀物自給率、日本の食料安全保障政策

略歴:1992年から農林中金総合研究所勤務

2004年 東京大学大学院 博士(農学)取得(論文博士)

2008~2019年度(中断あり) 早稲田大学非常勤講師

2015~2016年度、2020年度 東京大学非常勤講師

 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のもたらした混乱によって予期しない形で食料供給が不安定化し、食料安全保障への関心が高まっている。欧米を中心に世界の情勢を整理し、今回の動きの特徴や注意点を述べたい。

COVID-19の特徴的な影響

(1)多発した食料供給の不安定化

 今年、世界全体としてみれば穀物を中心とする主要農産物の供給は潤沢であった。そこにCOVID-19が流行した結果、米国ではさまざまな農産物の価格が下落した。例えば、自動車燃料の需要減少によりガソリンに混和されるエタノールと、その原料であるトウモロコシの価格が下落した。これまで、食料供給に関する懸念が取り沙汰される際は穀物等の需給逼迫(ひっぱく)と価格高騰が通例であり、今回とは様相が対照的である。

 それではなぜ、食料安全保障が問題となるのか。それはCOVID-19により、これまでとは異なる形で食料供給の不安定化が生じたためである。需要の変化とフードサプライチェーンの変調が広範に生じた結果、世界的な需給は逼迫していないにも関わらず、局所的な物の不足が生じたり、川上側では農産物の廃棄が生じた。また、世界各地でそうした変化や問題が同時多発的に生じたことも、これまでにない事態である。

(2)需要の変容

 感染の拡大を防ぐために世界各国で実施された外出規制と企業の営業規制、それに人の移動の規制によって、食料需要の場所と内容が急速に変化し、少なくとも短期的には供給側の適応が容易ではない状況となった。

 外食やホテル向け、および高級品の需要縮小は各国共通である。欧州では日持ちのする必需品へと需要が移り、ワインやフランスのチーズ、英国では高級ステーキ肉などが過剰となった。消費者による買いだめも日本に限らず、米国や欧州でも同様であり、一部の食品やトイレットペーパーの品薄も報じられた。

(3)フードサプライチェーンの変調

 農場から消費者に至るフードサプライチェーンのいずれかの段階で操業が停止、あるいは稼働率が低下すると物の流れが滞る。COVID-19はその全ての段階に発生のリスクがある。その結果として感染症に対して弱い構造を有する部門が明らかとなった。

 顕著な例は、米国における食肉処理工場の閉鎖である。大型の工場が多数閉鎖した結果、一時は食肉の生産量が40%まで低下し、小売価格の上昇や、大手スーパーが食肉の一人当たり購入量を制限したり、一部の地域ではファストフードレストランが牛肉料理の提供を停止する事態となった。複数の大手食肉処理企業が価格操作の疑いで起訴される一方で、出荷先を失った家畜の価格は下落し、養豚農場は豚の殺処分に追い込まれた。その後、工場は順次操業を再開し、処理能力はおおむね回復しつつある。

 また、人の移動制限による外国人農業労働力の不足は欧米でも同様であり、米国、ドイツ、英国などはいずれも特例措置を設けて入国を認め、労働力の確保に努めているが、COVID-19感染が問題化する例も少なくないようである。米国やドイツのと畜場では外国人労働者の待遇の悪さや感染対策の不十分さが指摘されている。米国の内陸部では地域の感染の中心地となったり、ドイツではと畜場での大量感染により地域が再び閉鎖される例も出ている。さらに米国では農場や野菜・果実包装工場での感染拡大も報じられている。

カテゴリー最新記事

ページトップへ