政府備蓄米に対する本会の対応
〜取り組みの目的・早期出荷要請・物流強化・メディア対応〜
農林水産省は本年3、4月に3回の「政府備蓄米の買戻し条件付き売渡し」(以下、入札備蓄米)を実施しました。「流通の目詰まりを解消し、円滑な流通を回復するため」という目的に対して、集荷団体として全力で協力するため、全農として約95%にあたる29万6000tを落札し、販売先へ供給してきました。一方で、国民的な関心の高さから「全農が意図的に流通を遅らせている」といった事実に基づかない報道やSNSが一時過熱化したこともありました。入札備蓄米に係るこれまでの全農の取り組みについてリポートします。
入札備蓄米の応札
全農は3月3日に公示された第1回入札から参加し始めました。背景として小売価格高騰による米離れが懸念されたこと、全農の集荷が昨年対比14%減少したことで販売先への供給責任が果たせていなかったことなどから総合的判断として経済連・県JAの要望も合わせて29万6000tを落札しました。
スピード優先というゴール変更
農林水産省の狙いは流通のスタック(目詰まり)を解消するというものでした。備蓄米の放出によるアナウンス効果※も狙ったものであり、一時期に大量に市場に流通させるという「スピード優先」がゴールではありませんでした。このため、令和7年産の新米が本格的に出回る9月まで、切れ目なく供給することが全農と販売先である卸の責任であると考え、その前提で供給計画を組んでいました。
一方で米価格は当初の想定どおりには落ち着かず、4月に入っても入札備蓄米を使ったブレンド米が店頭で十分に販売がされていない状況を受けて、全農は5月2日に農水省から前倒し出荷要請を受けました。この時点から「スピード優先」にゴールが変更されたと理解しています。全農は取引先と協議し、出荷スピードを上げるための物流対応を急ピッチで整えました。
※アナウンス効果:政策を公表することで事業者の行動を促す効果。今回の場合は備蓄米の放出という政策を公表することで、民間が抱えている在庫を早く手放すことで価格引き下げにつなげる狙いを指す。
スピードアップのための物流対策
前倒し要請以降、100を超える取引先からの増加した出荷要請に応えるため、150の倉庫から300台以上のトラックにより一日4000tを超える出荷に対応する必要が出てきました。元々3月から全農物流とともに専門の部署を立ち上げていましたが、調整の難易度はさらに上がりました。取引先からの出荷要請に対する倉庫の出庫能力とトラックの確保状況、急なオーダー変更などパズルのように複雑な輸送計画をチームワークで乗り切ってきました。
また、備蓄米倉庫の多くは東日本に所在しています。西日本向けにはこれまで培ってきた「全農号」(JR貨物輸送)のノウハウを生かし、貨車を使った遠距離輸送も実施しています。九州や沖縄などへは内航船を使った海上輸送にも取り組んでおり、物流ネットワークを最大限に活用して対応しました。

メディアへの情報発信・消費者からの問い合わせへの対応
全農が入札備蓄米の95%を落札したことを受けて、「全農は米価を下げないために備蓄米を買い占めたのではないか」「意図的に流通を遅らせているのではないか」というメディアやSNSでの批判が多く見られるようになりました。全農の事務所にも消費者から直接クレームの電話が多数寄せられ、職員が長時間の対応を余儀なくされるという事態も発生しました。JAの現場にも消費者からの電話が多数寄せられたとお聞きしています。ご迷惑をおかけしたこと、心よりおわび申し上げます。
また、一部のメディアが、米の流通実態を十分に理解しないまま、誤った情報を報道する事例も数多く見受けられました。著しい誤報に対しては、当該メディアにと訂正を申し入れています。しかしながら、このような報道内容の全てに直接反論することは、事態をさらに悪化させる恐れがあるため、広報対策会議で協議し、また専門家の意見も踏まえ、慎重に正しい情報発信を心がけてきました。
❶ 3月17日 全農の入札備蓄米取扱指針を公表
❷ 3月18日 埼玉県で入札備蓄米の出荷・受け入れ拠点を公開、記者説明会を実施
❸ 4月25日以降 毎週入札備蓄米の出荷数量を発表
❹ 5月2日 流通円滑化への対応を公表
❺ 6月24日(大阪)25日(東京)主要メディアへの記者説明会を実施
❻ 7月10日 茨城県JA常総ひかりご協力のもとCE/農機センターなどのメディア視察ツアー実施
❼ 連日メディアからの問い合わせに広報対応(対応件数累計400件以上)


現在も依然として心無い偏向報道はあります。一方で役職員一丸となって丁寧な対応を継続したことにより、メディアからも落ち着いた正確な報道が増えていると考えます。消費者からの問い合わせも激減しています。
入札備蓄米の今後について
入札備蓄米は取引先と全量契約済みです。取引先の出荷要請にすべて遅滞なくお応えしています。取引先からのキャンセルもありません。また、一時期話題になった国への返還も行っておらず、8月末には契約全量の出荷が完了する予定です。引き続き、新米が出回り始めるまで安定的に切れ目なく供給し続けることで、消費者の米離れを防ぎ、取引先の要望にもきちんとお応えしてまいります。
