BB肥料の魅力とは 小谷さんが取材報告 工場から生産者まで訪ねました
モロッコからやってきた原料 環境にやさしい低コスト肥料に
JAグループには、北海道から九州まで15県に18のBB肥料(粒状配合肥料)工場があります。「地球環境にやさしく、生産現場の使いやすさにも対応したBB肥料」。肥料工場や肥料を愛用する生産者を取材した小谷あゆみさんが、BB肥料の魅力を報告してくれました。
粒のまま配合 〝エコな肥料〟
皆さん、BB肥料ってご存じですか? BBとは、Bulk(粒) Bleending(配合)の略で、原料を化学合成せず粒のままブレンドした肥料のことです。一般的な「化成肥料」が、窒素・リン酸・カリウムなどの原料成分に熱を加えるなどの処理をして生成するのに対して、BB肥料は、それぞれの原料を粒(バルク)のまま配合(ブレンド)するので、製造工程にかかる手間やエネルギーコストが少なく、エコな肥料だと言えます。

鹿島港の大型貨物船に潜入
最初に訪ねたのは、茨城県鹿嶋市と神栖市にまたがる鹿島港。国内はもとより世界から貨物船が寄港します。4月のある日、モロッコから2カ月以上かけて、リン安とリン鉱石3万4000tを積載した大型貨物船ブレイブスター(BRAVE STAR)が着岸しました。2月にモロッコを出航し、西日本の二つの港を経て、国内3番目の寄港地が鹿島です。取材許可を得て、荷揚げ中の貨物船に乗り込みました。
貨物庫を上からのぞくと、巨大な砂山に見えるのは、6000tのリン安です。大きなクレーンはまるで巨大なUFOキャッチャーで砂をつかんでいるように見えます。ひとつかみ、およそ7t。クレーン作業1回分で10tトラックの荷台は、ほぼ満杯です。
リン安を載せたダンプが向かうのは、港から1kmの全農グリーンリソース(株)鹿島支店。肥料原料の保管業務などを行う事業所です。倉庫の中で、原料を手に取ると、砂のように見えていたのは直径2〜4mmの粒々です。全農耕種資材部肥料課の手代木大地さんに伺いました。
「こちらがモロッコ産の肥料原料、リン安です。BB肥料は、こういった粒状の肥料原料を混ぜ合わせるだけで容易に作れるので、原料の配合を変えれば、各地域、作物、土壌に適したオーダーメイドの肥料を作ることができるのです」

宇都宮市で 混合・袋詰め
次に訪ねたのは、栃木県宇都宮市にある(株)JAグリーンとちぎです。倉庫にはモロッコ産のリン安とは別に、中国産のリン安の山も見えました。海外情勢が不透明となっている状況の中、安定供給を使命としている全農は、リスクヘッジのためにさまざまな国から分散して輸入しています。
グリーンとちぎの生産ラインには、混合機を経て袋詰めする包装機があり、制御室では製造工程の流れを確認するほか、配合比率を変える操作もできます。完成したばかりの肥料「ファイト055」の袋の中を見せてもらいました。気になるのは、配合むらができていないかということですが⋯⋯、手に取ってみると、数種類の原料がまんべんなく混ざり合っていることが分かります。
JAグリーンとちぎ肥料部の伊澤卓也さんによると、混合機で均一に配合するようチェックしているそうです。さらに、BB肥料の特徴は「化成肥料と違って、燃料も使いませんし、工業用水も使いませんので、環境にやさしいのも特徴です。また、工場も簡易で、大規模な施設も必要ないため、製造工程上、低コストで肥料を作ることができます」とのこと。

使って収量アップ 面積拡大へ
実際にBB肥料を使っている農家を訪ねました。宇都宮市の黒瀬勇磨さんは、就農4年目。ビール大麦の面積70ha。JAうつのみや管内屈指の生産量を誇り、祖父から引き継いだ営農組合で組合長を務めています。効率よくを管理する営農管理システム「Z—GIS」を導入し、地域の水田を引き受けている頼もしい存在です。
黒瀬さんは去年、オーダーメードのBB肥料を作りました。石灰と肥料を2回に分けてまく手間を一度にしようというのが狙いでしたが、その際に行った土壌診断により、リン酸が適正値より低いことが分かり、リン酸を多めに配合したオリジナル肥料を作りました。
黒瀬さんに効果を伺うと、「施肥作業が1回になったこと加えて、収穫量が上がりました。これが一番大きかったです」と、話してくれました。茎数を増やす「分げつ」に必要なリン酸が十分行きわたったことで、収量アップにもつながったのです。青々とした穂が揺れる大麦畑を見渡しながら黒瀬さんは、「田んぼを余らせずに引き受けて、見渡す限りの大麦畑にしていきたい」と夢を語ってくれました。
環境、生産効率、意欲向上にもつながるBB肥料、 もっと広まっていくといいですね。


今回の取材の様子をまとめた動画はこちら
【本編】BB肥料の魅力とは/小谷あゆみが紡ぐ 全農ストーリー(PR)
https://www.youtube.com/watch?v=SXm9aOsulFw&list=PLqVQ32o3-Gj-fP9Vx4FGCjwL34kYUyQij&index=17

農ジャーナリスト・フリーアナウンサー
小谷あゆみさん
石川テレビ放送のアナウンサーを経て現在はフリー。野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」として家庭菜園歴は25年。農ジャーナリストとして、都市農村交流や、生産と消費のフェアな関係をテーマに全国で取材、講演、シンポジウムでの司会やコーディネーターなどを行う。日本農業新聞ほかでコラム連載中。農林水産省・世界農業遺産等専門家会議委員なども務める。