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小谷あゆみさんが取材報告 トラック50台分のお米を運ぶエコ鉄道輸送 それゆけ「全農号」 

2025.12.22

 「物流2024年問題」対策として、2023年11月から定期運行を始めた米専用貨物列車「全農号」。米の産地、青森を出発し、北陸を経由して消費地の大阪まで、鉄道輸送で米の安定供給に取り組んでいます。全農号の一日に密着しました。


お米専用貨物列車「全農号」とは

 米専用貨物列車「全農号」は、「物流2024年問題」の対策として、JA全農、全農物流、JR貨物により、2023年11月から定期運行がスタートしました。

 青森県の八戸貨物駅を日曜日の夜に出発し、北陸を経由して大阪まで1000kmを超える輸送距離を約20時間かけて走ります。休日ダイヤを活用し、現在は月2回の運行です。

 9月のある日、全農号の到着時刻に合わせて、JR貨物・金沢貨物ターミナル駅を訪ねました。石川県金沢市の郊外にある北陸最大の貨物駅です。フラットな地面に線路が敷かれた広大な敷地の中には、運搬を待つコンテナが並び、フォークリフトやトラックが行き交います。

 正午過ぎ、ヘルメットに安全ベルトを着用して、線路そばで待機していると、赤い電気機関車がけん引する「全農号」がゆっくりと線路に滑り込んできました。貨物列車は20両編成で、最後尾までの長さは420m。20両に満載すると100個のコンテナが一度に運べます。

 運転室の中に入らせていただくと、見晴らしの良いフロントガラスに計器が並んでいます。前駅の富山で交代したばかりの指導員が応対してくれました。

 扱う貨物がお米とあって「なるべく揺れを少なくするよう」に、運転士に指導しているとのこと。停車時間、30分ほどの間に、石川県と富山県のお米のコンテナを積み終えて、全農号がいよいよ出発です。運転士の「発車!出発進行〜!」の合図とともに大阪へ向けて走り出しました。

金沢貨物ターミナル駅にて。全農号の電気機関車はEF510形、
愛称はECO−POWERレッドサンダー

「全農号」が誕生した背景は?

 「物流2024年問題」でトラックドライバー不足が懸念されている中、輸送力の確保と環境負荷低減に取り組むためにスタートさせた「全農号」。JA全農・米穀部主食課の小林優介さんに、その特徴を伺いました。

 「全農号の特徴は、一度に500tの荷物を輸送できる能力と、長距離区間を効率的に輸送できることです。そして、環境負荷低減につながることが大きなメリットだと思います。今後は、毎週運行を目指すことと、他のルートでも生産者のお米を消費者まで安定的に届ける仕組みづくりをしていきたいと思っております」。

 1回の運行で500t、トラック50台分の貨物が輸送できるということは、ドライバー50人分の仕事が一度で遂行できるということです。「物流2024年問題」対策として始まった「全農号」ですが、人手不足への対応と同時に、人件費や燃料コストの削減、省力化にも役立ち、CO2排出量の大幅な削減にも貢献します。

 環境負荷の小さい大量輸送手段への転換は「モーダルシフト」と呼ばれ、国でも進めていますが、まさに「全農号」は、環境問題と社会課題解決をリードした、持続可能な取り組みだといえます。

 現在の月2回運行から、毎週運行にするには、運用上の改善が課題ですが、そうなれば、さらに効果は増しそうです。

全農米穀部の小林さんはお米好きで1日3合食べる日もあるそう
田園の中を走る全農号(YouTube映像より)

作業を6分の1に短縮! 全農物流の新たな工夫

 鉄道輸送に加えて、全農物流では様々な工夫をしています。埼玉にあるお米の保管倉庫は、室温10〜15度、湿度約60%を保っています。庫内に積み上げられているのは、全農統一フレコン(フレキシブルコンテナ)。1袋は約1tです。規格を統一することで、産地から販売先までの輸送にかかる作業を省力化することができます。また、全農統一フレコンはフレコン規格を統一することで、産地への配布から販売先からの回収まで一貫した流通サイクルを可能にしています。

 全農物流 食料営業部 食料営業課・廣瀬雅則さんによると、「1袋30kgの紙袋ですと、1つずつ積み替えの手荷役が発生していたのですが、1020kg量目のフレコンだと34袋分がフォークリフトで一気に動かせます」。

 また画期的なのは、「レンタルパレットを活用した紙袋のパレチゼーション化」です。従来は拠点ごとに所有者が異なっていたため、移動のたびにパレットから荷物を積み替える必要がありました。そこで、規格統一したパレットのレンタル制を導入し、出荷元から納入先までパレットのまま、一貫して輸送できるようにしたのです。これにより、90分の積み替え作業が、15分に短縮されました。6分の1になったのですから、これは革新的です。

 そのほか、遠隔地への輸送力確保・環境負荷の小さい輸送手段を目的として、フェリーや内航船を活用した海上輸送に取り組んでいます。

全農統一フレコンの前にて小谷さん

長旅を終えた全農号が大阪へ

 さて、「全農号」の終点は、大阪市東住吉区にあるJR貨物・百済貨物ターミナル駅です。日曜の夜に青森・八戸を出発した全農号、月曜の夕方6時半に大阪へ到着しました。

 日が暮れて照明がともる中、フォークリフトがやってきてコンテナの積み下ろしが始まります。ここからは、近畿、東海、中国、四国、九州へとトラックや貨物列車で運ばれていきます。綿密なスケジュールとともにさまざまな仕事が分担され、スムーズに輸送されていくことを、改めて間近で見ることができました。

 お米の産地、青森、秋田、新潟、金沢と日本海側をひた走り、大消費地の大阪までお米を届ける「全農号」。物流を支える皆さんが私たちのもとにお米を届けてくれて、本当にありがとう〜! って叫びたくなりました。

大阪の百済貨物ターミナル駅に到着する全農号
百済貨物ターミナル駅を上から見た様子

今回の取材の様子をまとめた動画はこちら https://www.youtube.com/watch?v=50cyKo3yD0U

小谷あゆみさん
農ジャーナリスト・フリーアナウンサー
 石川テレビ放送のアナウンサーを経て現在はフリー。野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」として家庭菜園歴は25年。農ジャーナリストとして、都市農村交流や、生産と消費のフェアな関係をテーマに全国で取材、講演、シンポジウムでの司会やコーディネーターなどを行う。日本農業新聞ほかでコラム連載中。農林水産省・世界農業遺産等専門家会議委員なども務める。

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