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広報・調査部

【対談】全農 経営管理委員会 長澤豊会長×神奈川大学 兼子良夫学長

グローバル社会に向け人財を育む

 TPP、日EUのEPA、日米貿易協定などグローバル化が進展する中で、国内農業の維持・発展、地域の活性化のため、農業や地域の担い手をいかに育成していくかが問われています。全農の長澤豊経営管理委員会会長が、同じ山形県出身で神奈川大学の兼子良夫学長と語り合いました。


かねこ・よしお 1955年山形県出身。大阪大学大学院経済学研究科修了。大阪大学博士(経済学)。2013年神奈川大学経済学部長を経て、16年4月から学長に就任し現在に至る。文部科学省大学設置・学校法人審議会大学設置分科会特別委員、公益財団法人大学基準協会理事、日本サラマンカ大学友の会理事、山形県総合政策審議会会長、神奈川県日中友好協会副会長なども務める。
グローバル社会に求められる人材

兼子良夫学長 これからの大学の存立に必要とされるものは、時代を切り開く力であり、いかに人類の未来に貢献できるかに懸かっています。未来社会を先導する研究と国連が示した持続可能な社会(SDGs)への取り組みを強化して、その叡知を教育に反映し、地域や社会の課題解決に生かしていきます。本学は、2020年4月に「国際日本学部」を、21年4月に「みなとみらいキャンパス」を開設します。これらは、本学の100周年後の発展を担うとともに、世界標準の総合大学として責務を全うするためのものです。

長澤豊会長 全農は、肥料や飼料の原料の輸入に加え、国産農畜産物の輸出などの海外事業を広く展開しています。輸出事業の海外拠点においては、その土地のマーケットに精通した現地人材の活用が重要となっており、連携していかに成果を出すことができるかが問われています。一方、国内農業の現場は人手不足で、海外からの技能実習生抜きで持続的営農は難しいのが現状です。TPP、日EUのEPA、日米貿易協定など、世界の貿易の門戸が広がる中で、日本農業をいかに維持・発展させていくか、また、世界の方々に日本の農畜産物をいかに届けるか、グローバルな視点を持つ人材が今まさに求められています。

兼子学長 国際化とダイバーシティーが当たり前となり、国を超えて人とモノが行き来し、国家間の相互依存関係が濃密な時代にありながら、国境、文化、宗教などの壁が立ちはだかり「対立と分断」に直面する困難で複雑な世界に私たちは生きています。このような中、世界と日本の文化と歴史そして多元的な価値観を理解し、共生に関する世界標準の倫理を身に付けた人材が不可欠と考え「国際日本学部」を構想しました。新設する「日本文化学科」と「歴史民俗学科」の母体が、本学が世界に誇る「日本常民文化研究所」であることが他大学にない特長です。同研究所では、日本民衆の生活・文化・歴史を調査分析する先駆的活動を展開してきましたが、日本農村の社会学的研究はじめ共同体や農具についての研究も行っています。

地方活性化へ農業、教育の“一手”

長澤会長 近年、農村を訪れてその魅力を味わう「農泊」への関心が高まってきています。全農は、「農泊」の拡大に向けて取り組んでいます。その一つとして、全国各地の宿泊施設や飲食店、農業体験等の情報を集めたポータルサイト「農泊ネット」を今年10月に開設しました。このサイトなどを手掛かりに、少しでも多くの人に農村を訪れていただくことが、地域活性化の重要な一手になると考えています。また、全農は生産基盤の拡充を中期3カ年計画で掲げており、その手立ての一つが生産性向上の技術活用です。技術の開発・普及や人材育成の促進などのため、大学をはじめとする各地の高等教育機関と連携しています。

兼子学長 本学では、学生食堂において山形産「はえぬき」を使って「100円朝食」を提供していますが、2009年度からJA庄内みどりのご協力のもと、農業体験の機会を提供しています。生産者や農協職員の皆さまとの会話や稲刈り体験等を通して、「農業」についての気付きはもちろん、人としての生き方や共同体についても考える契機になっているようです。 農業は、「絶対的な必需財である食料の供給」と「自然環境の保全」の役割とともに、市場メカニズムでは計れない「共同体機能」と「文化の伝承」の役割をも担っています。このような日本農業に対する持続可能性と地方創生への提言は、日本常民文化研究所をはじめとする秀逸な知見を持つ総合大学である本学が全力をかけて取り組むべき課題だと認識しています。

長澤会長 農業の現場では多くの若い方々が活躍しています。自然の中で働き、自分の作ったものを消費者においしく食べていただくことに魅力を感じて就農した人もいます。得意なことを生かし、自由な発想とやり方次第で、収益の上がる経営ができます。多くの若者にやりがいのある職業として捉えてもらい、農業の未来を担っていただければと思います。

兼子学長 感性豊かな青年期に文学、歴史、芸術等に親しみ、「教養」を深めることを望みます。社会の変革は、教養ある想像力豊かな人間から生まれることが期待されています。その上で、SDGsに向けた動きに主体的に関わってほしいですね。

※本稿は、12月8日に山形新聞に掲載された記事を同紙の許可を得て要約・転載したものです。

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