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広報・調査部

【AgVenture Lab発 スタートアップ インタビュー】農家が作った農家のための農作業日誌アプリ 「AGRIHUB」を開発する(株) Agrihub代表 CEO伊藤彰一さん

 農業の作業管理ソフトはデータの入力に手間が掛かり、複雑で使いにくいため中小規模の農家にはほとんど普及していない—。エンジニアの農家が、既存の作業管理ソフトに満足できず、自分のために作り始めた農作業管理アプリ「AGRIHUB(アグリハブ)」。現場目線のシンプルな機能と操作性で、現在までに多くの農家に利用されています。今年からはJAなど農産物販売事業者向けの生産履歴管理システム「AGRIHUBクラウド」を販売開始。農業デジタルトランスフォーメーション(DX)を支えるエンジニア農家、(株)Agrihub(アグリハブ)代表の伊藤彰一CEOにお話を聞きました。 


自身が経営する「伊藤農園」に立つ伊藤さん

農家とスタートアップ経営者の二足のわらじなんですね。

 都内の電気通信大学で電子工学を学び、その後2社のベンチャー企業でシステムエンジニアとして働いていました。会社が経営統合されたのをきっかけに退職し、28歳で実家の農業を継ぐことにしました。今は1ヘクタールの農地で秋冬のキャベツ・ブロッコリーをメインに栽培していて、地元調布市の学校給食や、JAを通して近隣スーパーのインショップへ出荷しています。都市農業ということもあり、夏はミニトマトやエダマメなどの収穫体験も運営しています。仕事の割合としては農業とスタートアップ経営が半々ぐらいですね。

農業をしながら起業するまでの経緯を教えてください。

 農業を始めてみると、IoTよりもまずは、日々の作業をしっかりと記録することが一番大切だと気付きました。ただ、私は紙に書くのが苦手なので、就農してすぐに一通りの作業管理システムを試しました。でも、今出ているシステムは大規模経営を中心に開発したものが多く、パソコンでの記録が前提で、農作業中に簡単に記録をすることができませんし、欲しい機能もなく、個人農家である私には使えませんでした。「アグリハブ」はもともと自分のために、自分が使いやすい物を作りました。せっかく作ったので、アプリストアで無料でリリースすると、多くの個人農家から支持をいただけたため、会社を設立することになりました。

アプリ公開から3年経過し、ユーザー数も1.5万人超と増え、大変好評と聞きます。強みは何でしょうか?

 個人農家が簡単に記録を付けられるところだと思います。日本の農家の9割は個人農家ですが、個人農家が簡単に作業記録や、農薬の管理ができるアプリはこれまでほとんどありませんでした。「アグリハブ」は、現場で作業しながらスマートフォンで記録することを前提に作られています。説明書がなくても簡単に操作することができるくらいシンプルです。高齢の農家さんでもLINEが使えるくらいの知識があれば簡単に操作できます。そのため操作に関する問い合わせもほとんどありません。

農薬の検索、散布の管理ができる「アグリハブ」の画面
 
アプリの機能について教えてください。

 農薬でいえばどの作物で、何の農薬が、あと何回使えるのかが一目で分かり、農薬を使用する量まで自動で計算して教えてくれます。この機能は農薬の誤使用を未然に防げるため、農家さんやJAから大変好評です。その他にも、作業記録、出荷記録、売上管理、肥料管理などさまざまな機能があり、農家さんが必要な記録は全て「アグリハブ」一つで行えるようになっています。これらをエクセルに出力し、収穫予測やコスト分析を行っている農家さんもいます。最近では、農業生産工程管理(GAP)認証にも対応できる機能も追加し、歩留率など、GAPで必要な管理項目も記録できるようになりました。

これだけの機能を無償で使えるというのはすごいですね。

 このアプリを無償で公開した理由は、無償であれば全国の農家が使ってくれるから。より多くの人が使ってくれてこそ「アグリハブ」が農業界に貢献できるだけの価値を発揮できると考えています。多くの人が使うことで、全国の出荷予測が一瞬で出せたり、産地リレーを簡単に組めたりと、日本中の栽培を簡単に把握できる、そんな未来を「アグリハブ」は目指しています。ただし農家で完結するのではなく、同じく全国のJAに「アグリハブクラウド」を使ってもらってこそ、真価を発揮すると考えています。

JAなど農産物販売事業者向けに開発された「アグリハブクラウド」について教えてください。

 農家が「アグリハブ」で入力した栽培情報をJAがリアルタイムでパソコンから確認できます。農薬使用履歴管理や栽培管理全般のデジタル化、自動化ができます。現在、多くのJAは農家から農薬使用履歴を紙で受け取っていますが、文字がつぶれたり、癖のある文字の読み取りに時間がかかったり、多くの時間を費やしています。既に「アグリハブクラウド」を導入したJAマインズ(東京都)の担当者からは、アナログからデジタルになり業務効率が飛躍的に改善した上、農薬の誤使用を未然に防ぐこともできると、非常に喜ばれています。さらに、リアルタイムで農家さんが使った農薬を把握できるため、毎日の直売所出荷の農薬管理にも利用していただいています。

JAアクセラレーターに参加した効果はありましたか?

 全国のJAとの多くの接点はアクセラに参加したからこそ生まれました。それをきっかけに既にいくつかのJAで「アグリハブクラウド」の導入が予定されています。

 今後は「アグリハブクラウド」の機能をより拡充させて、JAの業務効率化に貢献していきたいです。農薬の使用履歴を分析して仕入れの参考にしたり、登録した防除歴に沿って部会の生産を管理したりと、農家の記録を用いた営農指導や販売計画がより効率的にできるように、さらに機能を強化していきます。忙しくてなかなか現場に出られないJAの職員の皆さまが、事務作業は「アグリハブクラウド」に任せて、さらに現場で活躍してもらえるようになるのが理想です。農家とJAをITでつなぐ「ハブ」になりたいと思っています。

ありがとうございました。


株式会社Agrihub

 農業現場を熟知している強みを活かし、中小規模農家に特化した営農管理アプリ「AGRIHUB」と、JAの経済事業強化につながるシステム「AGRIHUBクラウド」を開発・提供している。

アプリ「AGRIHUB」についてはこちら https://www.agrihub-solution.com/

「AGRIHUBクラウド」についてはこちら https://cloud.agrihub-solution.com/

 JAアクセラレーターでのピッチ動画はこちら https://onl.tw/U2SUH59

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