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広報・調査部

「米穀事業」令和4年の中間総括と来年に向けた戦略

全農 米穀農産事業担当常務理事 高尾雅之
全農 米穀農産事業担当常務理事 高尾雅之

 収穫を終えた令和4年産米。今年産の取り組みの中間総括と来年産に向けての戦略について、米穀農産事業を担当する高尾雅之常務理事に聞きました。


組合員やグループ一丸で作付け転換進む

——まず4年産を振り返って作付け転換の結果をどのように評価しますか。

 10月20日に農水省の食糧部会で、主食用米以外の品目への作付け転換の結果が公表されました。需給バランスを保つために設定した減少幅の目標3.9万haに対し、実績5.2万haと大幅な超過達成になりました。

 その結果、収穫量も前年比30.4万t減の670.3万tとなる見込みです。700万t弱ある年間の需要量を大きく下回る水準であり、5年6月末の在庫見通しは191万〜197万tとなる見込みです。これは、当初の目標200万tを下回る結果となっており、組合員をはじめJAグループ関係者が一丸となって作付け転換に取り組んだ賜物(たまもの)だと思っています。

——結果として需給は改善されましたが、価格動向についてどのように見通していますか。

 新型コロナも落ち着きをみせて業務用を中心に需要が回復しています。それらを背景に国が公表した4年産の9月末時点での相対取引価格(玄米60kgあたり、税抜き、包装代抜き)は1万2773円と、3年産の通年の平均価格より1058円の値上がりとなっています。ただし、値上がりしたといっても一昨年産よりは安く、適正な価格に徐々に戻りつつあるという感じです。

 現在、3年産以前の持ち越し在庫が50万t程度あります。1年前の10月末時点は42万tほどだったので、近年最大の持ち越し在庫数です。持ち越し在庫が大量に残っている中で微妙な需給バランスの上にある薄氷の販売価格とも考えられます。今後、コロナ次第で下に動く可能性もあります。いずれにしても今後、各産地が足並みをそろえて販売推進することが重要になってきます。

 

 

 

 

資材高騰で厳しい経営、適切な価格転嫁へ

——生産者は資材高騰で非常に厳しい経営状況だと思います。全農として現在取り組んでいることについて教えてください。

 今年8月に全中とともに、お米の卸団体や生協の団体など関係9団体に対して、「適正な価格形成への理解」を要請しました。肥料価格をはじめ、生産資材価格など生産コスト自体が上昇しているので、その窮状を訴えるとともに、団体として傘下の会員や組合員に適切な価格転嫁をお願いしてもらいたいという内容です。客観的なデータやエビデンスに裏打ちされた生産コストの上昇を示し、それを根拠に「持続可能な米の生産・供給には、再生産可能な適正な価格形成が必要」と価格転嫁への理解を求めました。

 また、精米工場でも電気料金や包装資材代など製造コスト、配送運賃が値上がりしているので、生産現場だけではなく米穀の卸売業者を含む米穀業界が一体となって、生協・量販店などの理解を得ながら適切に価格転嫁を実現することが重要な取り組みと考えています。

5年産も需要に応じた計画的生産を徹底

——5年産以降に向けて取り組むべき課題をどのようにとらえていますか。

 新型コロナやウクライナ情勢などこれまでに経験したことのないことが突如として発生する世の中となり、米価や需給動向がどのように動くかは不透明な状況です。ただ、国内の人口減少は続きます。米の消費減のトレンドをいかに食い止めるかということを念頭に置きながら課題を整理して対応策をまとめます。

 まずは需要に応じた計画的生産を徹底すること。将来的に農家が減ることによる生産減と、国内の人口が減ることでの需要減がバランスする時期がいつか到来します。そのときに備えて、「川上(生産)への関与」「川中(流通)での効率化」「川下(消費)での安定販路の確立」という大きな3本柱でとらえて仕事を進めていきます。産地ではカントリーエレベーター・ライスセンターや農業倉庫、精米施設などがかなり老朽化しているので、インフラを整備するのも喫緊の課題ととらえています。

——販売を含めた来年のマーケットをどのように見通していますか。

 急激な需要拡大や販売好転の可能性は低いとは思いますが、円安を背景としたインバウンドへの対応、米輸出についても積極的に取り込んでいきます。例えばカリフォルニア米やオーストラリア米の価格と比べると日本の米の価格も接近してきているので、輸出に対しては今がチャンスととらえて輸出の拡大にも取り組んでいきます。

外国産から国内産へ 企業とも連携強めて

——中長期的に全農として考えている戦略について教えてください。

 農業が魅力ある産業に戻るために、いろいろな施策を打ち出し実施していくことが考え方の基本です。

 食料安保を考えれば、米ばかりではなく、外国産から国内産への転換が可能な麦や大豆、飼料作物などに力点を置いた作付け転換を図ること。それに伴って農水予算や政策支援の獲得を全中と協力して取り組んでいるので、それらを一つずつ実現しながら、あるべき姿にもっていきたいと考えます。

 加えてゲノム編集など新たな技術によるスピード感のある品種開発への関与も強めていきたいと考えています。

 他企業とのアライアンスについては、近年、木徳神糧やスシロー、サトウ食品、日清製粉らと資本・業務提携を行ってきましたが、今後も社会的にインパクトがあり、本会の理念に賛同してくれるような企業と提携できる機会を見つけていきます。

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