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広報・調査部

「食と農を 未来へつなぐ」(4)全農事業担当理事インタビュー 尾本英樹常務理事(生活関連事業担当)

 総合エネルギー・くらし支援事業を担当する尾本英樹常務理事に、令和4年度の振り返りと5年度に向けての戦略について聞きました。


――令和4年度を振り返り、どのような一年でしたか。

 エネルギー事業では、ロシアのウクライナ侵攻を発端に世界的な資源高となり、原油価格が例年の1.5倍ほど上昇しました。そのため、生活用も農業用もコスト高が懸念されましたが、燃料高騰に対する政府の燃料油価格激変緩和対策事業や、農業用燃料へのセーフティネット事業のおかげで、コスト上昇が抑制されました。

 電力事業についても、発電で使用する石炭や天然ガスが高騰し、卸電力市場でのスポット価格も急激に上昇していきました。そのため、卸電力市場から電源を調達していた新電力会社の撤退が相次ぎ、契約していた利用者は非常に苦労しました。また、大手電力会社が春先からの値上げを発表するなど、電力業界も利用者もかなり振り回された一年でした。

――石油については国の支援に助けられた部分も大きいのですね。

 政府が元売や卸に補助金を出すことで小売価格の上昇が抑えられたため、原油価格が高騰しても利用者は安定した価格で購入することができました。高騰分を小売価格に転嫁していたら、生産者の経営や生活に大きな影響が出てしまうところでした。ただ、この制度は直接消費者に見えにくく、効果が実感されていないのが現状のため、国の要請を受けてJASSでもPRをしているところです。

――くらし支援事業はいかがでしたか。

 メーカー各社が食品の値上げを実施しました。全農は子会社でAコープを運営していますが、近年、食品スーパー業界は競争が激化しています。そのような中、原料が上がったからといってすぐに小売価格を上げられるかというと、なかなか難しい状況がありました。物流費などの中間コストや、電気代の高騰なども経営を圧迫し、Aコープ事業については非常に厳しい一年だったというのが総括ですね。

――そのような厳しい環境の中、5年度は特にどのようなことに力を入れていきますか。

ファーマーズ型店舗の出店促進 新しい業態への挑戦

 一つ目は、ファーマーズ型店舗の出店促進です。これはJAの農産物直売所とスーパーマーケットであるAコープの機能を一体化した店舗で、地元の青果物や精肉を中心に販売しています。地産地消、地元生産者のお店として、お客さまの評価も非常に高いと感じています。また店舗の屋根に太陽光パネルを設置して一部自家発電するとともに、EV車を導入して、BCP対策にも取り組んでいます。4年度は7店舗出店し、累計で全国43店舗まで拡大しました。5年度も引き続き、展開を進めていきます。

 また、他企業とのアライアンスの一環として、ドラッグストアの最大手ウエルシアグループと提携し、ドラッグストアとAコープが一体化したお店を2月に群馬県にオープンしました。近年、生鮮品を扱うドラッグストアも増えていますが、地元の農産物を扱うことは差別化につながります。店舗ではそれぞれの強みを生かし、生鮮品をAコープが、化粧品や薬、一般食品をウエルシアが担当し、レジは共通にしています。オペレーションなど、まだ実証中の部分もありますが、成果を踏まえ、今後、横展開していきたいと考えています。

2月にオープンしたウエルシアとAコープの一体型店舗
 

エーコープマーク品の強化

 二つ目は共同購入です。JAグループの組織力を背景に、日常生活の中で必要な商品をみんなでお得に買いましょうというのが共同購入運動の特長ですが、中でもJAグループのプライベートブランドである「エーコープマーク品」を主に展開しています。国産原材料を優先使用し、女性部の声を取り入れるなどお客さま視点で商品づくりをしていますが、さらに地域原料や地域商品の活用、JA全国女性組織協議会やフレッシュミズ組織との連携、製造委託先同士のコラボレーションによりJAらしさをアピールすることで販売先の拡大を図ります。また、工場や商品数の集約による効率化や組合員が求める商品の開発を進め、エーコープマーク品の品ぞろえを強化します。

 一方、共同購入の推進方法については見直しが必要だと考えています。今はインターネットショッピングも普及していますし、JA職員数が減少している中で、以前のようにJA職員が組合員宅を巡回して商品を販売する機会が少なくなっています。そこで組合員が本当に必要とする商品に絞り込み、Eコマースも活用しながら製造した商品をわれわれがしっかり責任を持って販売する合理的な仕組みの構築を図ります。

――エーコープマーク品は近くにJAがない場合、購入するのが難しい場合もあります。

 今後は生協や道の駅など系統外のお店でも販売できるよう整備していきます。そして、エーコープマーク品のファンづくりを目的に「コミュニティサイト」を立ち上げ、そこで組合員や消費者が意見を出し合い、交流できる場を作っていきたいと考えています。

「スマートアグリコミュニティ」構想の実証

 また、新しい取り組みとして、「スマートアグリコミュニティ」プロジェクトの実証です。今後、人口減少や高齢化などで地域の生活環境の悪化が懸念されています。農業の生産基盤は地域にあるので、地域の暮らしをいかによくしていくか。地域共生・地域活性化の実現に向けて、JAグループ版スマートシティの構築を目指します。

 4年度はプロジェクトの実行に向けて、整備計画やシステムの検討といった下準備を行ってきました。5年度はモデル地域を設定し、運用を始めます。この仕組みに賛同してくれる企業と積極的に連携し、実現に向けて一緒に取り組んでいきます。

JAでんきの推進

 エネルギー事業では4年度に引き続き、JAでんきの加入促進に取り組みます。電源を卸電力市場で調達する場合、需要によって価格が乱高下しますが、全農は大手の発電事業者と電源の長期契約を結ぶなど、調達手段を多様化し、安定した料金で電気を供給できるよう努めています。石油、ガス、電気と三つそろえることで、組合員が家庭や営農で使うホームエネルギーを責任持って供給できるよう、しっかりと体制を作っていきます。

――最後に令和5年度の全体的な展望を教えてください。

 エネルギー事業に関しては、JAでんきをはじめ、再生可能エネルギーの普及・拡大と、事業の裾野を広げていきます。また、化石燃料の需要減少が予測される石油事業についても、個々のSSの競争力を強化することで、全体の需要が減少してもシェアを拡大するという戦略で進めます。よって、エネルギー事業については投資も含めて積極的に取り組んでいきたいと考えています。

 一方、くらし支援事業では、業界自体が飽和し、過当競争の中でどうやって生き抜いていくかが最大の課題になっています。Eコマースも世の中に浸透しており、時代に合わせたサービスへの転換が必要だと思っています。ネットスーパーや移動購買車を導入するなど、次世代の仕組みを取り入れ、引き続き組合員の生活を支えていきます。

 くらし支援事業の根幹は組合員が必要としているものやサービスをしっかり提供することで組合員の生活をよくすることだと思っているので、それに寄与できるような事業を、この一年かけて取捨選択していくのが、5年度の一番の大きな目標です。

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