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インタビュー 新自由主義は猿っぽい、 協同組合は人間っぽい!

京都大学野生動物研究センター教授兼熊本サンクチュアリ所長 平田 聡さん

  1928年に発見された新種の類人猿、ボノボ。チンパンジーと並んで、人間に最も近い生物ですが、その行動や性格はチンパンジーとはかなり異なっています。その違いが人類社会を考える上でのヒントになればと考え、霊長類学の専門家である京都大学の平田聡教授にインタビューしました。

食べ物を分け合うボノボ(提供:熊本サンクチュアリ)
食べ物を巡りけんかするチンパンジー(提供:熊本サンクチュアリ)

 

プロフィル
ひらた・さとし/1973年生まれ。1996年京都大学理学部卒、2001年京都大学大学院理学研究科博士後期課程生物科学専攻修了・博士(理学)取得。京都大学霊長類研究所 ヒト科3種比較研究プロジェクト 特定准教授などを経て2015年4月から熊本サンクチュアリ所長。『仲間とかかわる心の進化――チンパンジーの社会的知性』(岩波科学ライブラリー)など著書多数。
人間に最も近いボノボとチンパンジー

 700万年ぐらい前にボノボとチンパンジーとの共通祖先が人間と枝分かれしました。そして、ボノボとチンパンジーとに分かれたのが、100万年から250万年前のどこかだと言われています。今、地球上に生きている動物の中で、人間に一番近いのはボノボとチンパンジーの二つです。研究者の受け売りですけど、人間とボノボ・チンパンジーとのDNAの違いは、全部の中で1.23%です。

ボノボとチンパンジーの違い

 ボノボとチンパンジーでは、雄と雌の性格が全然違います。

 チンパンジーは雄が力で制圧して、社会の安定を成り立たせています。雄は性成熟の過程で若者期に結構乱暴になって、めったやたらに暴れ回って、雌より強くなります。そして雄同士の戦い、力と力の勝負の中で順位を決めていく、そういう社会です。雄の中でも、1番、2番、3番というのを決めて、逆にそうすることで、頻繁にケンカする必要をなくしています。

 ですけど、ボノボの場合は、どういうわけか、雌の方が結束して、雄よりも権力を握っています。もめ事があると、雌同士で皆固まって、バラバラの雄を攻撃するので、雄が負けちゃうのです。虐げられているお父さんみたいな感じ。ちょっと言い過ぎですけど。

 ボノボは、チンパンジーに比べたら平和的です。野生のチンパンジーは結構殺し合いというのがありますが、それに比べてボノボの場合、殺し合いはしません。でも、ボノボもけんかすることがあります。ただ、その理由は良く分かりません。チンパンジーのけんかは、食べ物や雌の取り合い、雄同士の順位決め、縄張り争いなど原因が分かりやすいですが、ボノボの場合は、力関係、どっちが強い、どっちが弱いというのがないから、何かよく分からないところで秩序がアンバランスになって、けんかになるのかなと思います。

人間は先を見通す力に優れている

 人間がボノボやチンパンジーと違うのは、先を見通す力が優れている点です。将来を考えて、未来を考え、予測して、計画して、秋に米を食べるために、春に田んぼに苗を植えるということができるのですけど、チンパンジーもボノボも、見た感じだとそんな先のことは思っていなくて、いま食べられそうな物はいま食べる。だから僕が昔、行っていたアフリカで、人が植えた田んぼをチンパンジーが荒らしにくるのですけど、米だけじゃなくて、茎も全部食べちゃうわけですよ。いま食べられるから。あと熊本サンクチュアリの飼育施設でも、トマトを食べた後のうんちから種が芽を出して、トマトが出てきたりするのですね。実が出るまで待たなくて、食べられる若い芽のときに食べちゃうのです。ボノボも。これは基本的には同じだと思います。だから、いま待って将来の、いま食べたらこれだけの若い緑、葉っぱなのだけど、将来待ったらもっとトマトがいっぱい食べられるぞというのを見通して、投資をしたりはできないのだと思います。

人間は人間の良さである「長期的・多面的・利他的」な所を生かすべき
類人猿の系統樹(テナガザル以上)

 「ボノボに学べ」とか、「ボノボが理想郷だ」みたいに言われることもありますが、ボノボも理由が分からないけんかをしたりするので、「ボノボの良いところ、悪いところを学べ」、「チンパンジーの良いところ、悪いところを学べ」だと思います。

 人間は、ボノボやチンパンジーと違って、「長期的、多面的、利他的」という良さを持っているのだから、それを生かすべきです。新自由主義的な発想、「今だけ、金だけ、自分だけ」という考え方は猿っぽいと思います。

 協同組合というと、助け合って、将来の皆の生活を安定させましょうということだと思いますので、そういう原理が働くのは、そこは人間だからじゃないかなと。協同組合は人間っぽい、ということじゃないかと思います。

ことば

熊本サンクチュアリ

 熊本県宇城市にある京都大学野生動物研究センターの研究施設。チンパンジーやボノボを対象に、霊長類の比較認知科学や行動学に関する研究を行っている。

 日本の動物園にはボノボは飼育されていないが、ここには13年と14年に米国の動物園からボノボを受け入れている(非公開)。

ボノボ

 哺乳綱霊長目ヒト科チンパンジー属に分類される霊長類。1928年発見された。コンゴ民主共和国の、コンゴ河の内側の熱帯雨に生息する。外見はチンパンジーと比較的似ており、当初はピグミーチンパンジーと呼ばれていた。ボノボの生息地とチンパンジーの生息地は大河で隔てられていて、両者が同じ場所で出会うことはない。

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