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広報・調査部

With/Afterコロナ時代の食と農

 前号につづき、農林中金総合研究所取締役基礎研究部長の平澤明彦氏にグローバル視点で見る今後の農畜産物流通について、お聞きしました。


グローバルなコロナ禍による食料安全保障上の課題と農畜産物流通(下)

株式会社農林中金総合研究所 取締役基礎研究部長 平澤 明彦氏

各地の対応

(1)輸出制限、低所得国への影響

 ロシアやベトナムなど20カ国は、国内の安定供給を確保するため食料の輸出を制限・禁止した。これに対して臨時G20農相会議(4月21日)や、FAOは慎重な対応を求めた。最近ではWTO農業委員会(6月18日)でも、輸入国側の食料安全保障の観点から輸出制限を抑制する提案が多くの国からなされた。

 日本の主要な輸入先は輸出制限を課しておらず、また港湾施設や海運の大きな障害も生じていないため、日本の食料調達には特段の問題は生じていない。

 一方、従来から国民が十分な食料を得ていない低所得国の状況については、サプライチェーンの混乱や人の移動の制限が食料不足に直結する懸念があるとしてFAOが警告を発し、農業資材等の支援が必要と訴えた。実際に、南米やアフリカなど一部の国では既に食料不足に由来する暴動が発生している。

(2)欧米の農家支援策

 世界では50カ国がCOVID-19危機に対応して農業支援策を導入した。中でも、米国は190億㌦に上る大型の農業支援措置を導入し、大きな損失を被った畜産・酪農を中心に補償を行っている。これは2018年から2年続きで実施した貿易戦争の補償を上回る規模であり、WTO農業協定で認められた補助金額(AMS)の制限枠を超過するとの見方もある。

 EUは乳製品や食肉、野菜・果実などの市場隔離や生産調整措置を導入したほか、農村振興の補助金残額を農家への補償に活用し、これをWTO協定上の緑の政策であると主張している。さらに、5月27日にはコロナ禍によって生じた空前の不況に対処するための復興予算案を提示した。「緑の復興」を掲げて気候変動や環境保全に適合的な社会経済への移行を促進する方針であり、その一環として農業予算も積み増す。また、フードチェーンの気候・環境対応方針を示した「ファーム・トゥ・フォーク戦略」ではコロナ禍を受けて食料安全保障の確保を課題の一つに掲げ、2021年までに緊急時対応計画を策定する予定である。

今後の注意点

 COVID-19収束のめどは立っておらず、今後も各地の食料供給に予期せぬ混乱が生じる可能性は否定できない。コロナ禍への対応に追われる中で新たな問題に対処する余力はそがれているとみられ、複合的な要因による食料供給の不安定化にも注意が必要である。例えば、アフリカではCOVID-19による移動制限のため、サバクトビバッタが発生しても専門家の現地入りに支障をきたしているという。

 今後は感染防止に努めることは無論であるが、不測の事態に備えてフードサプライチェーン全体の回復力(レジリエンス)を強化するべきである。日本の状況に即して言えばこの春以降の経験に照らした弱点の整理と対応策、需要の変化に応じた供給側との速やかなマッチング、政府による適時の経営安定・支援策、主要輸出入国の動静にかかる情報の収集と分析が当面の課題である。今後とも世界的な食料供給には不安定化のリスクがあるため、中長期的には国内の農業生産基盤の維持を含めた食料調達戦略が重要であろう。

 また、コロナ禍による世界的な景気後退の影響も注視する必要がある。所得に占める食費の割合が高い低所得国や低所得層にとっては食料確保の困難さが増す懸念がある。食料安全保障以外の論点としては、高級食材や外食の需要が元通りに回復するには時間を要する可能性があろう。

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