役員インタビュー 持続可能な農業と地域社会のために
尾本英樹代表理事専務のビジョンと決意
7月30日に購買事業と管理部門を総括する代表理事専務に就任した尾本英樹専務。厳しい農業情勢や環境・物流問題など、JAグループを取り巻くさまざまな課題にどのように取り組んでいこうとしているのか——。インタビュー通じ、考えや取り組みについて伺いました。
——代表理事専務に就任されどのようなことに取り組みたいと考えられていますか。
「JA全農事業ビジョン2030」に向けて、目標を達成するための事業基盤を作るというのが第一優先事項です。その目標を達成させるためには、大きな課題が2つあると考えています。
1つ目は、コンプライアンスやガバナンスといった企業機能の充実です。全農の事業を取り巻く環境が、世界情勢を含め大きく変動する中で、事業の選択と集中を進めなければなりません。具体的には、資材の安定調達、施設や物流、DXを駆使した各農協・担い手への支援に加え、投資が重要です。多様な企業への出資、M&Aを含むアライアンスを取捨選択するとともに、投資先や出資先のモニタリングや管理を通じて、投資計画の実効性をいかに高め、優先順位を決めて財源をどう有効に使うかが重要になると考えています。

適切な情報発信の取り組み強化
広報についても、一般の方々やメディアに対して、いかに正しい情報を伝えるかが大切です。昨年のコメ問題で、全農が備蓄米の放出などに真剣に取り組んできたにもかかわらず、全農が扱う意義や目的が世の中にきちんと伝わっていなかったことは、一つの反省点だと感じています。
最近では、メディアの方々への説明会やニュースリリースなどでの情報発信を強化しているため、全農に対する理解も進んできていると認識しています。今後も引き続き適切な情報発信を行うことが非常に大切であると考えます。
課題の2つ目は人的資本経営です。事業の取捨選択を進める中で、限られた人材の最適配置や、職員が目標を持って仕事ができるような、事業ごとのキャリアパス制度の整備、R&D(研究開発)の推進に向けた専門家の育成と適切な処遇の検討などを進めることにより、職員の意欲と満足度向上に努めます。グループ会社との連携に関しても、部門によって取り組みに差がある中で、今後は人材交流に限らず、情報の共有やシステムの統一も図る必要があると考えています。

——環境問題についてはどのように取り組んでいきますか。
環境問題は世界的な課題でもありますが、再生可能エネルギー由来の電力を供給する「JAでんき」を推進しており、徐々に再生可能エネルギーへのシフトが進んでいます。このエネルギーを利用した「JAでんき」の契約者数はほぼ10万件に達しました。また、生活事業関連でも食品ロス対策として、Aコープを中心にゴミの回収やリサイクルなど、ゴミを減らす取り組みを進めています。
地球温暖化への対応としては、環境調和型農業の技術・資材を体系化した「グリーンメニュー」を策定し、実行しています。2030年度には全てのJAにおいて「グリーンメニュー」に取り組んでいただけることを目標に取り組んでいます。


——購買事業についてはどのように取り組まれますか。
購買事業で、まず挙げられるのは原料の安定調達です。
輸入原料が大部分を占める肥料や飼料原料などは、国際情勢が不安定な中で、輸入元の多元化と関係強化に取り組むとともに、海外拠点の再編整備を行っています。
物流に関しては、段ボールやパレットの規格統一を進めています。また、青果についてはファーマインドと連携した、コールドチェーン物流や冷凍青果物工場の設置による付加価値創造などの方策に取り組んでいます。
また、スマート農業にも注力しています。営農管理システム「Z-GIS」や栽培管理支援システム「ザルビオフィールドマネージャー」の普及を進めています。さらに、スマートコミュニティーの取り組みも進めており、組合員や消費者がスマートフォンを使ってサービスを利用し、最終的には生産者と消費者がデジタルの世界でつながることを目指しています。
——これまでの経験をどのように生かしていきたいと考えていますか。
私の人生のターニングポイントの一つは東日本大震災でした。最初に津波で全てが流され、震災直後には緊急支援が必要となり、食料、水、衣類など、さまざまな物資を被災地に届ける必要がありました。私は現地におり、農協や行政機関、自衛隊と連携を取りながら、必要な物資を必要な場所に届ける役割を果たしました。
JAグループは義援金、緊急資材、人材などを提供し、継続的な支援を行いました。これは協同組合精神そのものであり、復旧から復興に至るまで多岐にわたる支援を行いました。
具体的には、施設整備や圃場(ほじょう)の回復、農業法人の設立といった活動を行い、全農が出資や技術支援をしながら農業の仕組みを復元する努力を続けてきました。全農の知見や災害積立金も有効に活用され、震災前よりも結集率が高まったことは、全農の支援活動が信頼を得た結果だと感じています。
この経験を通じて、JAグループの素晴らしさを再認識することができ、JAグループで働くことに誇りを持ち、志を高く保つことができました。今後も災害対策を強化し、農業と地域社会の復興に尽力していきます。







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