特集

AgVenture Lab発 スタートアップインタビュー

2025.10.13
広報・調査部

食に関する社会課題に向けて商品開発
食材生かし栄養とおいしさを届けたい

 アグベンチャーラボ主催「JAアクセラレーター第7期」に採択された(株)東京バルは、食に関する社会課題に取り組みながら、国産有機野菜を使用した食アイテムを販売しているスタートアップです。取締役の筒井玲子さんに話を聞きました。

 ※JAアクセラレーターとは、JAグループの持つ幅広いネットワークとリソースを用いてスタートアップの事業成長を支援するプログラム    

株式会社 東京バル取締役 筒井 玲子(つつい りょうこ) さん

(株)東京バルの事業とその特徴について教えてください。

 食品加工における大量廃棄、温暖化ガス排出、安全性など、食に関する社会課題に取り組みながら、幅広い層に長きに愛される食アイテムをお届けすることを目指し、商品開発を展開する会社です。

 中でも基幹ブランドである「KAWAÌINE(かわいいね)」は「食材を余すことなく使用し、栄養と美味(おい)しさの両立を実現するアップサイクル&プラントベース食品」を基本コンセプトとして展開をしております。

 商品の販売の他にも飲食店の経営、レシピを提案する事業も行っています。

事業の原点となった東京バル店舗
レシピ開発の様子

コロナ禍で飲食店が休業 補助金活用し新商品作り

現在の事業を始めようと思ったきっかけは何ですか。

 元々、私たちの事業は知人が経営していた飲食店を事業継承し、店舗の経営から事業をスタートしました。その店舗名が現在の社名になっています。しかし、経営を譲り受けてすぐにコロナ禍に突入してしまい、飲食店は休業せざるを得なくなりました。

 その時に国から事業再構築補助金を受けられることになり、その補助金を資金にして現在の主力商品である野菜を使用した製品の商品開発に取り組むことになりました。

 野菜を使用した製品の開発は、私が元々、サスティナブルな食事を心がけていたことに加えて娘の影響も大きかったです。私たち(創業者)には5歳になるダウン症の長女がおります。彼女は赤ちゃんの頃とても小食で、少量でもたくさんの栄養を摂ってほしいという思いで野菜の皮や葉っぱなどの栄養価の高い部分をふんだんに離乳食にして与えていました。

 最も栄養価の高い野菜の葉っぱや皮など、使いにくい部分は捨てられてしまいがち。基幹ブランドである「KAWAÌINE」は、そんな野菜の良いところを取り入れながら“食べやすく、美味しく、新しい形でお届けする商品を作ろう!”とスタートしたアップサイクルブランドです。

基幹ブランドである「KAWAÌINE」について詳しく教えてください。

 「KAWAÌINE」は2024年9月にリリースされた自社ブランドで、三つの主力商品があります。

 一つ目は国産有機野菜の食物繊維を“そのまんま”ぎゅっと濃縮した「THIS IS SALADシリーズ」です。持ち運ぶサラダをコンセプトにしたグラノーラです。

 二つ目は茨城名産干し芋の皮残渣(ざんさ)を活用した「皮いいね」です。こちらは1歳から食べることができる砂糖不使用のスナックです。

 三つ目は発酵食品を活用した化学調味料を使わない旨味(うまみ)調味料の「UMAMI SPRINKLE」です。チーズ特有の濃厚な味わいを生み出すため、日本の 伝統的な酒造りの副産物である「酒粕(さけかす)」を使用しています。米国有名シェフ・評論家の集まる試食会で全参加者から「BUY」の票をいただくなど、味やコンセプトへの大きな評価を受けています。

 商品に使用する原材料については動物性食材、白砂糖、小麦を使わないことにこだわりを持っています。また、現在は大手の小売店、オーガニック専門のスーパーマーケット、子供用品店などで取り扱いがあり、インターネットでの販売も行っています。

 また、ドライフード商品の賞味期限が長いことを生かし、海外への輸出も積極的に行っています。

主力商品である「THIS IS SALAD」
「THIS IS SALAD」の原料となる国産有機野菜の食物繊維

野菜の新たな価値を創出 生活者に伝える橋渡し役に

JAアクセラレーターの期間行ったこと、または今後取り組んでいきたいことを教えてください。

 JA系統の食品工場で抱えている“未利用素材”の課題へのアプローチを行っていくべく、まずは当社工場が位置する茨城県における“未利用素材”の課題を解決できるよう商品開発を進めています。その他各行政へのヒアリングのもと、各地での事例共有や新たなパートナーシップ先の創出などを伴走頂いております。

 また、今後の展望としては、各地の残渣を可視化し、拾い上げる物流の仕組みづくりから商品開発、出口戦略までを一貫してご一緒していくことを展望としております。端材として捨てられてしまう日本のおいしい野菜をもっと活用して、新たな価値を創出していきたいと思っています。

商品製造の様子

日本の農業に対して感じている課題は何でしょう。

 日本の農業における課題を私たちが軽々しく定義することはできませんが、食品メーカーの立場から関わる中で感じている点を挙げさせていただきます。

 一つは「規格外や残渣の発生」と「それを有効活用する仕組みづくり」です。生産者の皆さまが丹精込めて育てられた農産物の中で、市場規格に合わない部分がどうしても出てしまいますが、その多くが十分に栄養やおいしさを持っています。

 もう一つは「消費者との距離感」です。都市部の生活者には農業現場のリアルな苦労や価値が届きにくいことがあります。私たちは食品開発を通して、その魅力を生活者に伝える橋渡しを担っていきたいと考えています。

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