【新春対談】全農経営管理委員会 折原 敬一会長×プロフィギュアスケーター 村上 佳菜子さん
なくてはならない存在をめざして~新たな挑戦と揺るがぬ原点~

スポーツを通じて得た出会いと学び
折原敬一会長 あけましておめでとうございます。
村上佳菜子さん あけましておめでとうございます。
折原会長 2017年に現役を引退されて以降、幅広い分野でご活躍の村上さんですが、昨年はどんな一年でしたか。
村上さん おかげさまで色々なお仕事に挑戦させていただき、あっという間に過ぎた印象です。会長はいかがでしたでしょうか。
折原会長 2025年を振り返ると、やはり米の供給不安が生じたことで、私たち全農にとっては非常に厳しい一年でした。現場の職員たちは本当に苦労続きだったと思います。「お米が足りなくなるかもしれない」と、日本全体が揺れ動く中、生産者、JAグループ関係者、取引先との協議のために各所を奔走する日々でした。その一方で根拠のない憶測や偏った見解が一部メディアやSNSで広がり、批判的な意見やクレームも多く寄せられました。対応に当たった職員は、本当に大変な思いをしながら、日夜奮闘してくれたと思います。昨年を通して改めて実感したことは、安全・安心な食を提供するという本来の使命と同様に、正しい情報を発信し続けるということも、全農の重要な役割の一つだということです。
村上さん 本当にあの時は周囲の人たちもお米の確保に奔走していました。うちでは普段からご飯を多めに炊いておいて、冷凍保存しながらやりくりしていたこともあって、なんとか困ることなく過ごせたのですが、改めてお米の大切さを痛感する出来事でした。私はロケ撮影で日本各地にお邪魔することも多いので、米農家さんのご苦労を耳にする機会もありました。農家さんたちのお話を直接お聞きして、今まで以上に「日本のお米をいっぱい食べて応援しなくちゃ!」と思いました。
折原会長 それが何よりもありがたいことです。
村上さん 東日本大震災の時にも、被災地の子どもたちをアイスショーに招待するという取り組みに参加させていただいたのですが、地域のJA職員さんと農家さんが一致団結して、復興に取り組んでいらっしゃる姿が強く印象に残っています。私自身は皆さんを励ますことしかできない中、JAグループの皆さまと地域の連携により、復興活動が具体的に進んでいくのを見て、とても感動しました。
折原会長 JAグループは協同組合ですから、お互いに助け合うことで困難を克服する力をもっています。私自身、1973年に山形県の尾花沢市農協に入組し、営農指導員の仕事などで現場一筋に歩んできましたので、職場や地域における人のつながりがいかに大事かということを、いつも身にしみて感じていました。つらい時や苦しい時も、先輩や仲間がいたからこそ乗り越えられたと思います。村上さんも現役時代、多くの人の支えがあってこそ頑張ってこられたのではないでしょうか。
村上さん おっしゃる通りです。そもそもスケートリンクがあってこそ、私たちは競技ができるのですが、製氷をしてくださる方がいなければ選手は氷上に上がることすらできません。ほかにも、衣装の準備や、食事管理や体のケアなど、チームや家族のサポートがあってこその競技です。かかわってくださる方々全員に感謝をしていました。
折原会長 私も学生時代はクロスカントリースキーの選手でした。スポーツを通じて得られる人との出会い、達成感はかけがえのない財産だと思います。目標を立て、それに向けて努力をし、最後までやり遂げる。これは組織や仕事も同じですが、自分一人では到底なしえないようなことでも、周りの人たちと協力することで、高い目標が達成できる。そうした体験を多くの子どもたちにもしてほしくて、全農では様々なスポーツ支援にも取り組んでいます。
村上さん それは素晴らしい活動ですね。会長がおっしゃった達成感は、まさに私がスケートをやっていて一番感じたことです。難しいジャンプが飛べるようになった時の喜びや、試合でスタンディングオベーションをもらった時の喜びは、何ごとにも代えがたいものでした。


食への思い、次世代への願い
折原会長 選手時代と現在とでは、食との向き合い方などは変わりましたか。
村上さん 食に関しては、実は現役時代よりも引退してからの方が意識するようになったんです。選手だった頃は「食事」というと、体重や体型のことばかり気にしていました。体が重くなると飛べなくなるし、軽くなりすぎてもパワーが出なくなるので、食べることは常に競技に直結しているものでした。管理栄養士さんが競技メニューに沿って作ってくださったものをただ食べる毎日でしたので、自分で考えて選んだものを楽しく食べるなんてことはありませんでした。
折原会長 アスリートにとっての食は、体力や筋肉のことを考えて、競技の際に十分に力を発揮できる食材や食べ方でなくてはなりませんよね。全農も日本代表の選手たちが海外遠征をされる時に、味噌汁やパックご飯を提供したり、海外での流通ネットワークを生かして、日本産のお米や和牛を使ったお弁当を提供したりしています。
村上さん それは選手にとって貴重なサポートですね。私はお米を食べるとすごくパワーが出る感覚があり、現役時代の「勝負めし」はいつもお米でした。引退してからは食を楽しむ余裕ができたので、色々な食材を吟味して選んでいます。今は自分で買った食材を自分で調理して食べているので、食品売り場では農産物の産地を毎回チェックしちゃいます(笑)。私は愛知県出身なので、愛知県のものが東京のスーパーに出回っていると、なんだか誇らしくて嬉しくなるんです(笑)。自分で選んで買うようになってから、食材はなるべく国産のものを選ぶようにしています!
折原会長 村上さんはご夫婦でかき氷店を出店されているとお聞きしましたが、お店で使用する食材もご自分で選ばれるのですか。
村上さん はい、かき氷に使う果物はすべて私たちで仕入れています。旬のフルーツを調べて、試食してから購入するので、かき氷店を始めてから、果物の旬に詳しくなりました!
折原会長 果物がお好きなんですね!
村上さん 大好きです。愛知県はイチジクの一大産地ですから、地元では安価で手に入りやすいんです。だから、イチジクの旬の時期には地元に帰りたくなっちゃいますね(笑)。あとは、お仕事で各地のロケ撮影に行くことも多いので、各地の直売所やJAさんのファーマーズマーケットによく立ち寄ります! 東京ではあまり見かけないような野菜や果物がたくさんあるので、いつも両手に抱えきれないくらい買っちゃうんです(笑)。
折原会長 それは大変ありがたいことです。地域の直売所や農畜産物の魅力なども、村上さんを通して、ぜひたくさんの人に伝えてもらいたいものです。
村上さん はい、国産の食材のPRを頑張ります! でも、農業の現場にお邪魔すると、農家さんの高齢化や後継者不足で悩まれているといったお声をお聞きすることも多くて、心を痛めています。
折原会長 まさに、それは喫緊の課題です。とりわけ近年は、肥料や燃料、飼料などの農業資材コストが高騰し、高止まりしています。いかに生産者の手取りを増やすか、担い手が夢をもって農業に取り組める環境を整えるか。こうしたミッションに私たち全農も全力で取り組んでいるところです。
村上さん 私の知人にも、料理人からIターンで農業を始めた人がいます。珍しい品目のものを生産したり、若者らしい観点で、加工品をおしゃれなパッケージで販売したりしていて、こういう人がもっと増えたらいいのに、と思います。
折原会長 将来の日本農業を担う次世代をどう育成するか。これもまた、私たち全農の重要な役割の一つであると考えています。そのために、新規就農者や若い農業者が実践型の研修を受けられるチャレンジファームやトレーニングセンターを設置し、担い手世代が新たに挑戦できる環境を整え、バックアップする体制を整えています。
村上さん 農業でも実践的なトレーニングを積める場所があるというのはいいですね。
折原会長 農業はどうしても「経験と勘が頼り」といったイメージがありますが、これからはスマート農業などへの対応も含め、最先端の技術を習得できる人材育成が不可欠です。私たち全農の使命は生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋となることですが、そのためには何よりも地域の営農と生活を支援し、元気な産地づくりに取り組まなければなりません。村上さんのご友人のように、新規就農者として地域に根ざしながら頑張ってくれる人がどんどん増えることを願っています。

原点は揺るがず挑戦にひるまず
折原会長 次世代という意味では子どもたちも大切な存在です。全農では「田んぼの生きもの調査」や「全農親子料理教室」、「全農みんなの子ども料理教室」といった食農教育を長年続けています。都府県本部でも熱心に取り組んでいて、こうした活動が地域の隅々まで広がり根づいてくれることが、大切な次世代教育につながると信じています。
村上さん 私自身を育ててくださった山田満知子コーチを見ていて思ったのは、一人ひとりの個性に応じて言葉や教え方を変えている、ということでした。それぞれの性格や受け止め方を注意深く見て、塩梅を変えてあげることが大事なんだと気づきを得ました。
折原会長 そのように自身の体験や教訓を次世代に伝えていくことこそ、育ててくれた人やチーム、業界への恩返しにもなりますね。
村上さん おっしゃる通りです。最近は残念なことに「以前ほどフィギュアスケートを見なくなった」という声を耳にすることや、アイスショーでも空席が目立つこともあります。今後は私もいっそう幅広いジャンルで様々な活動をしていきたいと思っているのですが、それは少しでもスケートに興味をもってくれる人が増え、業界を盛り上げていきたいという願いがあるからです。そうすることでフィギュアスケートに恩返しができればと思っています。
折原会長 そんな村上さんは2026年をどんな年にしたいですか。
村上さん これは毎年の目標でもあるのですが、心も体も健康でいられるように、自分を大事にしたいと思っています。フィギュア関係の具体的な活動としては、高橋大輔さんプロデュースの「滑走屋」というアイスショーへの出演や、「村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会」というコンサート企画なども織田信成さんをゲストにお迎えして予定しています。こうした新しい取り組みにもどんどんチャレンジしていきたいです。
折原会長 私たち全農も2030年に向けた「JA全農事業ビジョン2030」を策定し、「なくてはならない全農」を追求しています。生産者と消費者を結ぶ懸け橋として、安全で新鮮な国産農畜産物をお届けするという原点は揺るぎません。国消国産、そして食料自給率の向上に向け、一層強固に取り組んでいきたいと思います。
村上さん 私も農業界における全農さんのように、フィギュア界において「なくてはならない存在」と色々な人から思っていただけるよう頑張ります! 本日はありがとうございました。
折原会長 こちらこそ、ありがとうございました。

むらかみ・かなこ
1994年愛知県生まれ。3歳からスケ−トを始め、伊藤みどりや浅田真央らを育成した山田満知子コーチに師事。2009年JGPファイナル優勝、2010年世界ジュニア選手権優勝。2010年〜2011年シーズンGPシリーズアメリカ杯優勝、グランプリファイナル銅メダル獲得。2013年の全日本選手権で総合2位となり、2014年ソチオリンピック出場。同年の四大陸選手権で初優勝。2017年に競技生活から引退し、現在はプロフィギュアスケーターとしてアイスショーなどに出演するほか、解説者やタレントとして幅広く活動中。






