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広報・調査部

インタビュー 食農業界をリ・デザインする気鋭の起業家 菊池 紳氏

SENDのロゴ

農家と都会の消費者を新しい価値観でつなぎたい

 全国の農家と個人経営の外食店舗を結ぶサービス「SEND」を立ち上げた起業家、菊池紳氏。今、菊池氏は食農業界に新たな価値をインストールすべく動き出しています。


きくち・しん 1979年東京都生まれ。投資銀行やコンサル会社、外資系投資銀行などを経て2014年、農家と個人経営のレストランをつなぐ農畜水産物の流通・購入支援サービス「SEND」を提供する㈱プラネット・テーブルを起業。現在は同社の経営から退き、若手起業家の育成や大企業の新規事業開発支援を行いながら、食農分野で新しい事業をつくるべく「たべものCo.」「いきものCo.」を新たに立ち上げる。「連続起業家」。

──菊池さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

 20代は投資銀行やコンサル会社で経験を積みました。外資系の投資ファンドで国内大手外食企業の担当になったのが食品や流通に関わり始めたきっかけです。ちょうど毒ギョーザ事件などで国産回帰が叫ばれる中で、出資先の外食企業は国産原料が調達できないと言っていた。けど、実際現地と話してみると余裕であるんですよ。何だろう、この情報と流通のアンマッチは、ひどいなって。

 30歳の時に山形の祖母から電話が掛かってきて、農家を継いでくれないかと言われて。1年半くらい通って「週末農業」のようなことをして、農業自体はすごく対応力が高い産業だなと実感した。そこで流通の問題を何とかしたいなと思い始め、小さな会社を仲間と立ち上げて、大きい農業法人と企業をつなぐような仕事をやってたんですよ。

 ちょうどその時、農水省から6次化ファンドの立ち上げを手伝わないかと声が掛かって(2012年)。投資ファンド出身で農業とか流通もやってきている経験を買われました。じゃ1年間だけお手伝いしますということで参画しました(これが後の農林漁業成長産業化支援機構=A-FIVE)。

 関わってみて一番問題だと感じたのは、ファンドかいわいには農家さんのためになるプレイヤーが全然現れないんですよね。これだと産業が変わらないぞという問題意識は強くなってしまったので、じゃ、自分でインフラ作りに行くかと。それで2014年にプラネット・テーブルをつくりました。

シェフがWeb注文、農家が出荷 野菜を仕分けし自社便で配達

──菊池さんが起業したプラネット・テーブル、そして「SEND」というサービスについて教えてください。

 中小の農家と個人経営のレストランをつなぐ仕組みです。ただしITだけではなく、自ら物流も担うサービスです。今、レストラン8000軒、農家6000軒弱くらいのユーザ数になっています。シェフがWebから注文すると、農家から野菜が出荷され、プラネット・テーブルのデポで仕分けし、自社便でレストランに届ける仕組みです。

 なぜ個人経営のレストランか? 個人経営のシェフにいろいろ聞いたら、基本的に自分たちは量が少ないので卸も全然配送してくれないし、卸は土日も水曜日も休みで、自分たちが一番必要な仕込みの時に持ってきてくれないとか、もっと地域性や季節性のあるものを使いたいのにっていう思いも分かった。そして農家にきちんとリスペクト(尊敬)の気持ちがある。これに応えるには物流をやらなきゃと思って、先に大型のバンを買って、その後ITで受発注を作り始めて。結果、物流を自前で持つITベンチャーになっていったというところです。

──物流まで課題認識してそこを自分たちでやりきるのは実はすごいことだなって思います。

 ITだけだと食べ物の問題って解決しないんですよね。よくIT化っていうんですけど圧倒的に重要なのは配送効率とか、食べ物をいかにロスなく運ぶかっていう、保存が効くなら保存、温度とか湿度とかそういったものの管理状態ももちろんなんですけど、あといかに適切に配分しきるかみたいなところも含めてITだけじゃできなくて。食べ物って原料から料理になって口に入るまでなので。

 そういった意味ではJAさんとかは、産地から市場まで届けていて、本質的には物流と保管が最大の価値だと思うんですよね。僕らもJAさんともしょっちゅう一緒に仕事していたし、すごくロック(型破り)な組合長もいる。そこは本当に世の中の人に知ってほしい。

 ただし、SENDの規模だと中小の農家さんを救うインフラにはなってない。まだまだいっぱいやるべきことが多いと思ったときに、こればっかりやっていても駄目だなと思って、僕は次の課題を解決しに行こうと去年判断し経営から退きました。

農家は野菜を仕送り 都会は稼いで仕送り

──今取り組まれているものをご紹介いただけますか?

 コロナが起きた時に外食もやってないので野菜余るのが分かるじゃないですか。余るのにスーパーはカラになっているんですよ。何で人ってこんなに買い占めるんだろうって思って、どうせ翌日入るのに。たぶんコロナで社会不安が食料不安に直結しているんだと思うんです。

 僕は食べ物の心配一切なかったですよ。全国40人くらい親しい農家がほとんど親戚の人たちみたいなもので、いつも送ってもらっているので、食べ物がなくならない安心があるんですよね。むしろ多過ぎて周りに配ったらみんな喜ぶんですよ。これが家の近くにあったら全然心配ないね、そういう場所があったらいいねっていう話があって、じゃあやってみるかということになった。

 コンセプトは拡張家族プロジェクトといって、血縁はないんだけれども、田舎と都会で親戚つながり作りましょう。農家さんと都会で働く人で仕送りし合ってもらおうと、農家は野菜の仕送りしてくださいと。その分都会から稼いで仕送り返すからという仕送りの設計をしようということから「New Coop(ニューコープ)」をスタートしました。

 このサービスでは野菜は選べないんですよ、仕送りだから。中に20種類とか入っているんですけど、使ったことがない野菜とかも入っているんですよ。でも都会の消費者はものすごく喜ぶんですよね。

 それが「取引」じゃうまくいかないんですよね。コミュニティーじゃないとうまくいかなくて。農家も東京の生活者もみんなインターネットを介して同じコミュニティーに入ってつながる。今は渋谷のカフェの入り口を受け渡しの窓口にしているんですけど、どこでやってもいいのでお店を構える必要もないし。なのでJAさんと組んでもやれます。すごく期待しています。今後は規模拡大していきたい。実証も終わって、黒字なので現在は事業化の準備中です。

──JAグループとも一緒に新しい価値を生む機会ができればうれしいです。今日はありがとうございました。

NewCoopの開催の様子

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