特集

91農業最前線! 小谷あゆみさんが取材報告

2026.07.20
広報・調査部

山形県の生産現場に密着!
総勢50人の仲間が支えるサクランボ

 全農では、農繁期の人手不足を解消するとともに、農業に関わる関係人口を増やし、産地を次世代へつないでいくことを目指して、「91農業」の普及に力を入れています。農業以外の人に向けて、今の生活スタイルはそのままに、1割だけ農作業や農業バイトを呼びかける91農業。サクランボの生産日本一の山形県。その生産現場を支える91農業最前線を農ジャーナリストの小谷あゆみさんがリポートします。

サクランボ農家の軽部賢太さん(左)と小谷あゆみさん(右)

早起きは三文の徳!朝5時の収穫作業で副収入

 山形県寒河江市。サクランボの大産地ですが、収穫期間のピークはわずか2週間ほどと短いことから、短期間に集中して多くの人手が必要になります。しかも収穫から、選別、箱詰めまでほとんどが手作業のため、この時期はバイト人材の取り合いになるほど。軽部さくらんぼ園でもこうした課題が、91農業の人材を受け入れるきっかけでした。
 早朝5時、果樹地帯にあるサクランボのハウスに、20代から30代の男性が次々と集まってきます。サクランボの実は気温が上がると傷みやすくなるため、収穫は7時半までの2時間半が勝負です。10人ほどが2mほどの脚立に上がり、大きな「紅秀峰」の木を取り囲みます。指揮を取るのは軽部さくらんぼ園の軽部賢太さん(40)。社員1人に加えて軽部さんの地元の友達や後輩もいます。ラジオが流れる中、時折おしゃべりや笑い声が飛び交います。30分ほどで摘み終えると、次の木に移っていきます。皆さん自分の勤めや仕事を持っていますが、期間限定で友達の農園を手伝って副収入も得られます。7時半になると、各々作業を終えて、出社していきました。

株式会社 軽部さくらんぼ園
2024年11月に設立

会長:軽部賢一さん(76)、代表取締役:軽部秀和さん(46)、専務取締役:軽部賢太さん(人材部門を担当)、社員は母の悦子さんを含む2人。法人化し、規模拡大にシフト。労働条件を整え、今後は社員も増やしていきたい。

 住宅街の中にある作業場へ移動すると、冷房完備の室内には30人ほどのパートさんが働いています。中は、選別と箱詰めの作業別に大きく2つのゾーンに分かれています。一家総出の中、大活躍するのは母の悦子さん(71)です。
 また、農作業受託会社に入ってもらうため、軽部さんが工夫したのは、作業を分けて専業化することでした。サクランボのサイズはMから4Lまで5段階あり、専用の「選果板」を使って選別し、赤い色づきの割合も見極めます。以前は、一人が選別から箱詰めまでをしていましたが、分業化により初心者は選別に、熟練の人は箱詰めに専念できます。
 この方式により初心者に選別ミスがあっても、箱詰めの段階で熟練者が再チェックするため、品質を保ちながら効率が大幅に向上。出荷量は一日約300kgから500kgへと増えました。
 働く人は、30年間毎年手伝いに来るご近所さんから受託会社に登録している人など、10代~80代まで、8割は女性です。お昼休憩の1時間のほか、10時と15時の30分間はみんな一緒に休憩してコミュニケーションの時間です。

91農業のポイント
繁忙期の作業人数25~30人を毎日調整


取材日の内訳は、家族5人、社員2人、パートさん15人、「91農業」の登録者は3人。
※パートさんの休日や人数に合わせ、91農業の手配で来る人数は変わる。日々の人数調整を外部委託することで、軽部さんは現場の仕事に専念できる。

休憩時間に会話を楽しむ悦子さん(中央)と
小谷あゆみさん(右)
箱詰めされた山形県産サクランボ「紅秀峰」
収穫期を迎えたサクランボ
出荷基準に沿ってサクランボを選別

パートさんは実は顧客!応援団50人がいる強さ

 こうした工夫が身を結び、軽部さくらんぼ園はこの5年間で栽培面積を約1.5倍に拡大しました。先代までは約2haでしたが、離農する園地を引き受け、昨年と今年それぞれ約40aずつ規模を拡大し、現在は合計約3haです。
 全農山形で91農業を担当する佐藤大輔さんは、「温暖化の影響で収穫適期はさらに短くなり、人手確保の難しさに拍車をかけている。軽部さんの人柄もあり、人が集まる農園を築いているのは頼もしい。91農業は、これからの産地には欠かせない仕組みになっている」と話します。
 収穫現場と作業場を合わせて延べ50人。機械化しにくく、人手がかかるサクランボ生産は難しい半面、軽部さんの取り組みには希望も感じました。
 「生産工程を知った上で買ってくれるのはうれしく、自信にもなります」と軽部さん。働く仲間は実は顧客であり応援者でもあったのです。こうしたつながりの深い層を持っている農業こそ強い農業です。生産者と消費者がともに働き交流することで、お互いの意識が変わります。単なる「雇い主と働く人」という二者関係ではなく、地域の宝を大切に食卓に届ける運命共同体です。仲間が増えると、地域全体のイメージやブランド力アップになります。暮らしに1割農業を! 皆さんも91農業、はじめてみませんか?

談笑しながら休憩する参加者
小谷あゆみさん
農ジャーナリスト・ フリーアナウンサー
 石川テレビ放送のアナウンサーを経て現在はフリー。野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」として家庭菜園歴は25年。農ジャーナリストとして、都市農村交流や、生産と消費のフェアな関係をテーマに全国で取材、講演、シンポジウムでの司会やコーディネーターなどを行う。日本農業新聞ほかでコラム連載中。農林水産省・世界農業遺産等専門家会議委員なども務める。

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